13:
※近○相○表現があるので、きつい人はこの話を読み飛ばしてください。
むかしむかし、双子の女の子がいました。
二人はいつでも何をするにも一緒でした。それで二人は幸せに暮らしていました。
悲しいことも腹が立つことがあっても、二人一緒なら何にも怖くなかったのです。
だけれどある時、双子の片方は気付いてしまったのです。
「あの子と私は、本当は何もかも違う人間だ」ということに。
それをった途端に二人は離れて暮らさなければならなくなりました。
何も知らず、何も気付かなければ、ずっと二人一緒にいれたのかもしれない。
女の子は後悔しました。反省して、遠くの場所で生きている片割れのことを思い続けました。
◆
私が生まれた時、一人ではなかった。
おんなじ顔の妹がいた。同じ日に生まれた双子の妹、哀。
私が私だと気付く前から一緒にいた。私たちは常に二人だった。ずっと一緒にいるから離れていたら不安で仕方がない。
まだほんの小さな頃から、哀と離されたら私は火がついたように泣いていたらしい。
喧嘩をすることもあったが、それでも離れることはなかった。何でも半分でも、少しも嫌ではなかった。
「零、いいもの見せてあげる」
小学校からの帰り道に連れられて、近所の空き地に行った。
そこにブチの付いた猫が住み着いていた。猫は空き地の隅に置かれたダンボールの中にいた。いつの間に哀は見つけたのだろう。私達はいつも一緒だったのに。
「かわいいよね」
哀は動物が好きだった。好奇心旺盛で、人見知りも少ない。
私達は何もかもそっくりだと周りの人は言うけれど、本当は違う。
たしかに見た目は似ている。
学校の先生でもなかなか私達を見分けられない。同級生にも間違われた。だから、見分けるために哀は髪を二つ縛りで、私は長く伸ばして下ろしていた。
だけれど中身は違う。
私は哀がいないと耐えられないけど、哀は違う。私は哀がいれば他の誰とも仲良くしたくないけど、哀は違う。幼い頃から何となくそう感じとっていた。
「お母さんがね、お父さんが許してくれたら飼ってもいいよって」
手にじゃれつく子猫を哀がかかえて、私に見せてきた。
私は動物が怖いと思ってしまう。人間も含めて生き物全般が得意ではない。特に何か危害を加えられたことはないけど、何となく命の気配が怖い。うっかり命を奪ってしまいそうで怖かった。ほんの子どもの頃から。
「哀、零。もうすぐお父さんが帰ってくるよ」
お母さんが私達を呼びにきた。
おっとりしていつでもにこにこしているお母さん。
この人に叱られた事が記憶にない。そのくらい穏やかな人。
「おかーさん…」
お母さんが大好きだった。哀と2人でぎゅっと抱きつく。
私は小さな頃、とても満たされていた。幸せだった。
哀がいて、お母さんがいて、夜になるとお父さんが帰ってきて、ありふれた家族の風景だけれど今となっては絶対に戻れない。それが当たり前だとその時は信じていた。ただただ無知な子どもだったから。
お父さんは普通の人だった。
少なくともあの時までは。
きちんと仕事をしてお金を家庭に入れて、それで休みの日は家族で出かけた。遊園地に行くこともあれば、ドライブの時も会った。どこに出かけるのも楽しくて嬉しくて、哀とよくはしゃいでいた。
お父さんとお母さんが喧嘩しているのを見たことない。お母さんは無茶なことをいう人ではなかったし、お父さんだって家ではあまりしゃべらないけど穏やかで落ち着いたいつもにこにこ顔の人だった。
そんな日常が壊れたのは、小学四年の春だった。
私は昔から発育が哀や周りの子よりも早くて,生理が来るのも早かった。
おなかが気持ち悪くてトイレに駆け込んでびっくりした。自分が未知の病気になってしまったかと思った。性教育がまだ小学校でもされていなくて、哀にも言えなかった。
誰にも言えなくて隠していたが、お母さんが汚れた下着を見つけてしまった。
お母さんは「女の子なら誰にもあることなんだよ」と慰めてくれた。赤飯を炊いてくれたが、恥ずかしくて仕方がなかった。
哀と同じじゃないことが嫌だった。私だけ別の生き物になったみたいで怖かった。なんで私だけ…呟いてみても、哀は首を傾げるだけだった。
無邪気な哀が羨ましかった。
その晩、誰かが寝ていた私の布団に入ってきた。
怖くて叫ぼうとしたが、それが誰か分かった途端声があげられなかった。
能面みたいに表情が無いお父さんが、私に覆いかぶさっていた。
訳が分からなかった。お父さんが何をしているのかまるで分からなかった。ただすごく怖かった。何か嫌な事が起きる予感がした。隣の哀の寝息と衣擦れの音が続いた。
痛い。痛い、痛い、苦しい。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。気持ち悪い。
涙が自然と出た。屈辱的なその行為。
何をする為のことなのかも分からないが、きっと最悪に近いものだ。
(どうして)
喉から胃液がこみ上げてくる。
声が出ない。とっさに哀にだけは見せてはいけないものだと思った。絶対に私とお父さんがしているこの行為を見せてはいけない。
(やめて)
私が知っているお父さんじゃないみたいだ。
知らない誰かに体を乗っ取られたようにも見える。あのお父さんが、私にこんな事をするなんてとても思えない。
懸命にもがいても、大の大人に押さえつけられたら動けなかった。
(お母さん、助けて)
怖くて仕方がなくて、全身が勝手に震えた。
生暖かい人の息が首にかかる。お腹に何かの体液が飛び散った。臭くて汚い熱い、そのなにか。
私は気絶したのだと思う。
朝になるとそこにお父さんの姿はなかった。私は、パジャマもきちんと着ていた。
でも、あれは夢じゃない。現実で起こった事だ。
「ああ…」
下腹部に鈍い痛みが残っている。シーツにうっすら赤い血のようなものが付いていた。
「あ…あ、ああ」
気持ち悪い。何でこんなことが起きてしまったのだろうか。
「あぁああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
その日から私の日常には平穏というものが無くなってしまった。




