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102:


付き合ってきて気になりはじめたのは、鬼丸は報告連絡相談がかなり苦手ということだ。


まず、一度自分の家に帰ったらそこからなかなか電話に出ない。ていうか電源切れになっている。何していたか聞いても「別に?普通だよ?」とだけ言う。

家のことを聞いても「今は親戚の家にいる」としか言わない。前の家を引き払った事すら聞いていないし。前に少しだけ聞いた父親との全然上手くいっていない関係性の話もそこから先は知らない。

休みの日も会うと前から約束していないと全く会えない。「ちょっと野暮用が…」とかなんとか言ってはぐらかされる。


別にいちいち行動やら何やらを報告しろと言っているわけではない。ただ、あまりに鬼丸は正直に言ってくれなさすぎる。

それは困る。これから長く付き合っていくのだから、信頼関係をしっかり築きたい。俺のことで鬼丸が知らないことがほとんどないように、鬼丸のことも教えてもらわなければならない。






「よし。そこに直れ、鬼丸」



輝、昴、おっさんは出かけた。あいつが保護者面するのは癪だけど、幼稚園の懇親会に行っている。ついでに輝と昴も付いていった。

家族がいると込み入った話がなかなかできない。だから今日はいい機会だ。


「え、なに…どしたの?何、もしかして怒られる?」


鬼丸はびくついて、正座なんかしている。休みの日に、いきなり呼び出して「そこに直れ」なんか言ったらそれは気構えてしまうのかもしれない。


「鬼丸、俺たちって付き合ってるんだよな?一応確認するけど」


「そう、だね?多分そう…?」


確認するまでもないとは思っていたけど、まさかそんな疑問系で曖昧に答えられたのが多少ショックだった。


「だ、だ、だって、付き合う付き合わないとか直接言ってないし、自信ないよそんなの…」


いつも頭の下で髪を二つ縛りにしている鬼丸は今日に限って髪を下ろしている。そんな状態で下唇を突き出してしょげているからかわいくて仕方がない。


「普通は言わねーだろ。言葉になんかして」


「そうなのかなぁ…」


鬼丸は小首を傾げた。何か考え込んでいる。なにを思っているのか言ってはくれない。それがもどかしい。


「俺はお前が好きだし、お前も俺が好きだろ。で、こんな風に休みでも二人で会うし、家族ぐるみで仲いいし、付き合ってるだろ」


「…あんまり今までと変わらなくない?」


「変わった方がいいか?」


聞くと、鬼丸は控え目に首を横に振った。少し恥ずかしそうにはにかんだ顔が可愛いかった。


「俺も、彼女なんか作ったことないし、勝手分かんねーよ。ただ、付き合ったからにはお前だけだってもう少し自分のことを話せ。こそこそと何やってるか知らないけど」


「え?なに、何の話…」


本気で自覚していなかったのだろうか。自分の秘密主義を。目を見開いて驚いた顔をしている鬼丸のデコを軽く叩いた。ぺち、と良い音がした。


「良いことも悪いことでもいい、俺に隠し事なんかするな。どんなことでも、お前を嫌いになったりしないから」


「………」


鬼丸が口半開きで此方をじっと見る。感情が読み取れない。子どもと大人の中間みたいな生き物の顔をしているとしか分からない。


「…ほんと?」


頷く。鬼丸はそれでもまた疑り深く質問する。


「じゃあ、例えば私がモンスターだと言っても一緒にいてくれる?汚くて不気味な馬鹿なモンスター。悪いことだってたくさんするし、沢山の人を悲しませるし、殺すし食べちゃっても」


「…な、なんだその例え…」


「例えなんかじゃないよ。本当に私は化け物なんだ。犬塚君には人間の姿に見えているかもしれないけど」


んなわけあるか。笑ってやった方がいいのかとも思ったが、鬼丸が真顔なのでやめた。


「あんまおちょくんな。こっちは真面目に話してんのに」


「だよね。ごめんね、犬塚君。わかったよ、犬塚君にもっと色んなこと話さないとだね。内緒にするのも止める」


鬼丸はいつもの見慣れた顔で笑った。

あまりにあっさり了承したから、拍子抜けだった。







それから鬼丸はちゃんとどこで何をしていたか必要最低限のことは話してくれるようになったし、ふらっとどこかに突然消えたりはしなくなった。

嬉しかったので、今日の弁当はあいつの好物の煮卵も入れてやった。昼休みになって鬼丸を呼び出そうとしたら、前に女子が立ちはだかった。


「あのさぁ、犬塚。ちょっとへんな噂聞いたんだけど、鬼丸と付き合ってるってホント?」


クラスの派手な女子、金城だった。あまり普段絡まないので、いきなりそんな話を振られるとは思うけど。


「あ、ああ、付き合ってるけど?それが何だよ」


「はぁ!?」


いきなり大声で叫ぶものだからつい舌打ちしてしまった。


「なんでそっち行くの?大体、あいつ猿河君と付き合ってんじゃん」


「…は?」


なぜ奴の名前がそこに出る。

ムカムカと嫌な感情が胃の上あたりで沸き立ってくる。


「あいつが猿河を好きになるわけねーだろ。あんなにいじめられておいて」


「だって、本人から聞いたよ。猿河君と付き合ってるって。それに、授業サボって二人でいるところ見たっていう人もいるし」


「あ?」


「あんた、騙されてんのよ。何も知らないからって。まだ付き合ってそんなに経ってないんなら、別れなよ」


「だとしても、お前に口出されることじゃねーよ。黙ってろ」


腹が立ったし、余計な不安も煽られて、不快で席を立った。

そんなこと嘘に決まってる。

前はしつこく猿河に付きまとわれてたらしいから、その時のことを言っているんだろう。付き合ってると言ったのも、何か誤解されるような言い方をしたのだろう。しかし、急に鬼丸が心配になってきて、教室に未だに戻らないことが気になってきた。

廊下に出て、探し回るが見当たらない。



お腹痛くなってトイレにこもってた、と昼休み終わる直前で戻ってきた鬼丸は説明した。

でもその匂いがいつもの鬼丸の匂いとは違っていて違和感を感じた。そういえば確かにたまに鬼丸は自分の体臭以外を身体に纏わせているときがある。

嗅覚は鋭い方なのだ。冷蔵庫の傷んでいるものを嗅ぎ分けるからかもしれないが。


面白くないと思っても今までスルーしていたが、何かおかしい。この甘い匂いはお香の匂いか?女子?いや、でもやや苦そうな汗の匂いもする。男の汗だと直感的に判った。


鬼丸が生徒会の日なので、買い出しに行っている間ずっと考えてみた。


確かに嗅いだことがある。そしてこの匂いは嫌いだ。不潔でもないのに、嫌悪感が湧く。きっと嫌いな奴の香りなんだろう。


「嫌いな奴…?」


そこまで嫌いな奴なんか、この学校にいるか?思い当たる人間はいた。しかし、どう考えても一人しか思い当たらない。

足を止めて、奴のことを思い出してみる。たしかにそんな匂いだったような気がする。

最近あまり教室の周りをうろついたりして見ないから、鬼丸に興味を失ったかと思ったが。まだ付きまとわれているんだろうか。あいつもしつこい。あの見た目なら騙されて遊んでくれる女子は山ほどいるだろうに、何かにつけて鬼丸を構いたがっているようだ。


明日、猿河に念の為に釘刺しに行くか。

あの意地の悪そうな整った顔を思い出したらまた胃がムカついてきた。

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