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[extra24 歪む世界]

祐美ちゃんが亡くなった時、私もその場にいた 。

馬鹿みたいだけど、私は最期の最期まで神様がどうにかして彼女を助けてくれるのだと思っていた。

そうはならないのだと理解したのは、彼女に今際の言葉を貰ったときだった。私は真っ黒な絶望に塗りつぶされた。


とうとう彼女が息を引き取り、肩を震わす黒澤さんと泣き叫ぶ輝君と昴君の姿が痛ましい。特に犬塚君など見ていられなかった。


彼はやはり泣き崩れたりなどはしなかった。

感情を表に出さないよう、必死に堪えていた。少しでも触れてしまえば、壊れてしまいそうな危うさで何とか人間の形を保っているのは明白だった。


それから、通夜や葬式で忙殺されているうちはいい。


全部終わって、祐美ちゃんの匂いのするものを全て片した後、犬塚君は動かなくなった。電気もつけない誰もいない部屋で棒立ちして。


「…あれ、おにまる…?」


聞いたことの無い幼い声色で、私を呼んだ。

なぜ私がここにいるか、いつからいるか覚えていないらしい。私を呼んだのは犬塚君なのに。


「お疲れ様、犬塚君。よく頑張ったね」


無意識に彼は私に助けを求めた。

だから、私は大義名分を掲げて持って彼を救うことができる。


「かなしいね、苦しいね。痛いよね。いいよ、もう誰も見ていないから」


抱きしめても、犬塚君は抵抗なんかしなかった。

手加減されてるように思えない強さでしがみついてくる人は紛れもなく犬塚はるか君だった。


彼は決して弱い人間ではい。強くて正しい魂の持ち主だ。こんな風に誰かに感情をぶつけるなんて、彼にとってあってはならないことなのだろう。


だから、今彼が吐いた感情も言葉も、誰にも言わない。私も受け止めるだけしかしない。


かかる息が火のように熱い。湿った皮膚でじわじわと私自身を溶かしていくようだった。


平気でも正気でもあるはずがないのは知っていた。また、彼が抱えたものは一人で処理できるほど、軽微な苦しみではないのも。

助けを呼べたのは、むしろ彼が強い証拠なのだと思う。心まで壊れてなくて本当に良かった。



(『おに、ちゃ…お願い…』)



分かっているよ、祐美ちゃん。

何だってする。彼らを守るためならどんなこともしてみせる。喜んで犠牲になる。


「私はずっといるから、ずっと犬塚君の側にいるから、好きなだけ使ってくれて構わないよ」


たとえ世界をどんなに歪めようと、救ってみせるよ。


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