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[extra23 贄]








「鬼ちゃん、私、末期ガンなんだって」



祐美ちゃんは私にそう告げた。


「えっ…」


最初は信じられなかった。

だけど、よく見れば祐美ちゃんの顔は血の気が無くて、化粧に隠れてはいるけど目元が落ち窪みはじめていた。


「本当、なの…?」


なんで今まで気づかなかったのだろう。

あんなに瑞々しかった腕が、いつのまにかこんなに細い。

なんだか最近疲れているとは思っていた。それは黒澤さんとのごたごたでそうなっているのだと思っていた。


「盲腸で入院した時に言われたんだ。かなり進行が早くて、治療しても回復の見込みないって。あと、半年生きれたら良い方だって」


頭の中で自分の鼓動がやけに大きく響いている。喉の奥が張り付いたまま乾いて、呼吸も上手くできない。


「はるか君たちには言ってないし、ギリギリまで言わないつもり」


うそだ。そんな現実認めない。


「でも、鬼ちゃんに言ったのは、これからお願いしたいことがあるから」


祐美ちゃんは私に深々と頭を下げた。「やめて」と私は叫んだつもりだが、声にならなかった。



「私が居なくなっても、はるか君たちと一緒にいてください」



私はぶるぶる震える事しかできなかった。


「哀ちゃん、私自身は自分の人生に悔いなんかない。普通の女の人の何倍も激しい人生を生きてきたし、嬉しい事も楽しい事も経験させてもらったから」


頭を下げたままの祐美ちゃんの声も震えていた。


「でも、どうしてもあの子たちの事だけは気がかりで心配で、どうしようもないの…」


喉の奥が熱くて、何か吐き出したいのに吐けない。


「私はダメで頼りない母親で、あの子たちに何にも残せない」


そんなこと、言わないでほしい。


「きっとこのままじゃ、皆、だめになってしまう。そして、最初に潰れるのは、はるか君だ。あの子は責任感が強すぎるから…」


祐美ちゃんは、だから、黒澤さんとの再婚を決めたのだ。犬塚君ひとりじゃ支えきれない。


「鬼ちゃんは、希望なんだよ」


それこそ本当は逆だ。


「ずっと見てきてたよ、君のこと。私は君がすごく好きだし、君に救われた事あるんだよ。私もはるか君も。だからきっと、鬼ちゃんがいれば大丈夫。だから、ごめんね。鬼ちゃん、本当にごめん」


私が欲しかったものは、手の届く範囲にありながらいつでも手に入らない。

暖かくて、柔らかい、ありふれているけど、とても貴重なもの。


「はるか君を助けて、守って、側にいてあげて」


ごめんね、と何度か問答を続けた後、祐美ちゃんは言った。




「私たちのために、犠牲になって。鬼ちゃん…」





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