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episode23 献身


「ごめんね、鬼ちゃん」


なんで祐美ちゃんが謝るのだろう。彼女は何も悪くないのに。

私はどうすればいいのか、何かこの先に希望は無いのか考えてみた。だけどもう何も打つ手がないのだと彼女は言う。


「いやだよ」


いつの間にか私にとって犬塚君の家はものすごく大切な存在になっていた。私が欲しかったもの全てがあった。簡単に触れたり出来ないほどかけがえがなかった。


「嫌だ。祐美ちゃんも、犬塚君も、輝君も、昴君も、離れちゃだめだ。変わらないでよ。何でもする、私は何でもするから。だから諦めたりしないでよ」


祐美ちゃんはこんな時でも綺麗だった。


「諦めてなんかないよ、あたしは」


声だけ力強く、祐美ちゃんは言った。


「だからごめんね」

「鬼ちゃんにきっと呪いをかけるよ」

「あたしは、君が本当に大好きだし自分の子どものように思うけど」

「でも、やっぱりはるか君たちの幸せを優先してしまう」

「ごめん、本当に最低だけど」

「お願い、鬼ちゃん」


私が断るわけない。絶対に、なにが何でも。

だけど、本当にそれでいいのだろうか。それで皆が幸せに暮らせるのだろうか。わからなかった。ただ、祐美ちゃんの望みである以上、叶えるしかない。


私なんかどうなったっていい。私は自分の未来なんか到底想像出来ないし、誰かのために生きれるならそれだけで上々だ。


「私たちのために、犠牲になって。鬼ちゃん…」


私は思った。

もしかしたら私はこの為に生まれてきたのかもしれない、と。

ひとに初めて必要とされた気がした。自分の価値を見出せた気がした。


絶望とも幸福ともいい難い。どうしようめなく苦しくて痛くて、私は泣いた。みっともなく涙をぼろぼろ零しながら、自分と何の繋がりもないにも関わらず私は彼女に縋った。


お母さん。


違う。この人は私のお母さんじゃない。でも、限りなく私の理想に近いお母さんだった。

何もなかった私を優しく迎え入れてくれた初めての大人だ。

大好きだと言ってくれた。自分の子どもみたいに優しくしてくれた。


「犠牲なんかじゃないよ…」


祐美ちゃん一人悪者にならなくてもいいじゃないか。私だって罪を被る。誰に恨まれてもいい。

それで彼女が救われるなら、仮に世界を壊したっていい。

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