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[extra22 疑惑]



「体調を崩していたんだろう?もう大丈夫なのか?」



生徒会に出ると桐谷先輩から声をかけられた。新調した眼鏡の奥の醒めたような目も心なしか心配な気持ちをたたえていた。

桐谷先輩から何件か連絡が入っていたのは気付いていたが、返してなくあげられなかった。


「ああ、もう大分元気です。すいませんでした」


そうか、と桐谷先輩は答えたがまだ何か言いたげに私の方を見ていた。


最近、ちょっと桐谷先輩の様子が変だ。


桐谷先輩は基本的に自分の思った事は良くも悪くも率直に言ってしまう非常に正直な人だ。私についてなにか言いたいことか聞きたいこちとがあるのは間違いないのだが、なかなか確信的なことを言ってくれないのでもやもやする。


「鬼丸君、君は本当に大丈夫か?」


だからなんでそんな何回も聞いても答えなんか変わらないのに。


「何か、困っていることとかないか?最大限助けたいんだ」


「え、別に…」


桐谷先輩の手を借りてまでして欲しい事なんて思いつかない。議事録も書き終わってるし、行事も近々で大きなものはなく仕事も担当されてないので暇だから書類整理と掃除しているほどだ。


「桐谷先輩こそ最近ちょっと変な感じしますけど、どうかしました?」


聞いても、何か言いかけたきり黙ってしまう。そんなに言いにくいならば深くは追求しないけれども。


「…えーと、最近異常気象が多いな。妙に今日は暖かったな。まだ冬だというのに、桜が咲いた所もあるらしいぞ」


「え、なにその話の逸らし方…」


笑っちゃうくらい不自然な会話をしながら真顔でしっかりテンパってる桐谷先輩は面白かった。

軽いミーティングが終わると他の生徒会メンバーは帰ってしまった。一応、五時までは生徒会なのだが。

私と桐谷先輩が書類整理を黙々と進めている。花巻先輩は大会で他県に行っているし完全に二人っきりだ。


「言いたいことあるなら言ってくださいよ。逆に気になっちゃいますから」


言うと桐谷先輩は「うーん」とか「あー…」とか低い声で少し唸ったあと、意を決したようにきっと私の方に向き直った。


「君の父親についてなんだが…」


「え?」


「君の父親はどんな人だ?それが少し気になって」


なんで桐谷先輩がそんな事を気にするのだろう。また先輩のお父さんと何かあったのだろうか。私からすると何一つもう不安要素なんかないように見えたのに。


「普通の人ですけど。何の変哲もない普通のサラリーマンですよ」


「…お父さんと二人暮らししているのか?」


「そうですよ。それがどうかしましたか?」


「……」


桐谷先輩の顔がいつにもまして怖かった。別に睨んでいるつもりは本人には多分ないのだろうが。

嘘だと分かるすべなんて桐谷先輩には分からないはずだ。私は安心しきって平然とした顔で書類整理の作業に戻った。


「そうか。君はまだ何も知らないんだな」


小さい呟きに少し引っかかったが、何も答えようもなくそのまま流れてしまった。本当に桐谷先輩がいつにもまして不思議だ。なんか微妙に気まずくなって、雰囲気をつくりなおす為に話題をかえることにした。


「そういえば、私のクラスに転校生が来たんですよ。女の子の」


「へぇ、この時期に珍しいな」


「桃園 零ちゃんっていうんですよ。桐谷先輩ってもしかして知り合いだったりします?なんか理事長の娘らしいんですけど」


確か桐谷家はウチの学校の理事長と交友があったはずだ。もしかして顔見知りだったりするかもしれない。

しかし、桐谷先輩はあまりピンときていない様子だった。


「え?いや、理事長は確か…」


「あっ!噂をすれば、桃園さんだ!おーーーい!」


執行部の窓から丁度下校する桃園さんを見かけたので、急いで窓を開けて呼びかける。

桃園さんは足を止めて軽く会釈した後、そのまま何も言わず行ってしまった。


「あの女子生徒が、桃園 零か」


桐谷先輩の声が頭の上から聞こえた。振り返ると桐谷先輩が何かを考え込んでいる顔をしていた。


「あれ?知り合いではなかったんですね。まぁ、そうですよね。さすがに分からないことだってありますよね」


「うん…。ただ、少し気になるな」


なにが気になっているのかは分からないけど、桐谷先輩がもしそんなに気になるのなら今度紹介してみようかなとも思った。執行部に誘ってもいいし。…あ、でもやっぱ桃園さんは嫌がるかな。


携帯が制服のポケットの中で震えた。あんまりにも長く鳴り続けているものだから、猿河氏かなと思ったが違った。着信はもっと別の人物からだった。

慌てて席を外して電話にでると、声の主はすぐ喋ってきた。少し急いでいるらしい。


『ごめんね、鬼ちゃん。ずっと延び延びになっちゃったけど、今なら時間できたから少し話せたりできる?いきなりで難しいかもしれないけど』


祐美ちゃんだった。


「だ、大丈夫!どこ?さくら通りのミスド?分かった、片付けしたらなるべく早く行くから!」


桐谷先輩に用事が出来たと謝って生徒会執行部を後にした。


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