episode21 盲目の王子様
私が成り行きで生徒会執行部に入って二ヶ月経った。
執行部を継続しているのは桐谷先輩のみであとは新メンバーなので、またまだぎこちない。けれど、思ったより順調である。最初は桐谷先輩に恐れを抱いていた執行部メンバーもだんだん打ち解けてきた。
花巻先輩も遊びに来てくれるし。
「別に、遊びに来てるわけじゃないわよ。打ち合わせ、打ち合わせにきてるの」
とか言いながら、執行部のバリスタで淹れたコーヒーを1日1回は飲みにくる。
「花巻先輩、桐谷先輩なら今日少し遅れるって言ってましたよ」
資料を整理しながら言うと、即座に「ば、ばかっ!別にたまたま来ただけだしっ、桐谷に会いに来たとかじゃないから!勘違いしてるわけじゃないわよっ」と真っ赤な顔で声を張り上げる。
桐谷先輩と花巻先輩の関係は【友達】にランクアップした。
桐谷先輩の反応は変わらないが、花巻先輩は少しずつ変わっている気がする。元々美人ではあったが、なんだか角が取れて可愛くなっている。
「花巻先輩っていいよな」と執行部の男子が言っていたのを聞いた事がある。
いい傾向だ。このままうまく花巻先輩の気持ちが伝わるといいなと思う。
「そういえば、もうすぐ修学旅行ですね。北海道でしたっけ?お土産待ってます!」
「そーよ。なんでこのクソ寒いなかさらに寒いとこに行かなきゃならないのよ、ふざけてるわよねぇ」
とか言いつつ花巻先輩の口元はにやけている。よっぽど楽しみらしい。
「班とかちゃんと桐谷先輩と同じになれました?自由研修に回るとことかもう決めました?」
「…あんたの立ち位置一体何なのよ」
そんな風にごちゃごちゃと花巻先輩と雑談をしていたら、桐谷先輩が戻ってきた。
「君たち、ずるいぞ。何故僕も会話に入れてくれない」
冷徹で厳しそうな真顔で開口一番桐谷先輩の発した会話がそれだった。もし、それを聞きなれない生徒がこの場にいたら盛大にずっこけるだろう。
「あーら、お忙しい生徒会長サマはこんな下々の者に構いあそばす時間などないのではなくって?」
花巻先輩がここぞとばかり私の頭を撫でくり撫でくりする。ペットでも可愛がるみたいに。
「なら、会議が終わったらお茶でもどうだ?三人で」
「あ、無理。塾ある」
「私も放課後はちょっと…」
「……」
盛大に女子二人に振られてしまった桐谷先輩は真顔だった。しかし、少し小刻みに震えていた。ショックだったらしい。
平和だった。少なくとも表面上は。
花巻先輩といると、桐谷先輩と一緒にいても罪悪感は感じないし距離感も保たれる。ずっとこのままなら楽しいのに、とさえ思う。
「そう?それは哀ちゃんだけだと思うけど」
私の髪を櫛で梳かしながら、猿河氏はぽつりと呟いた。猫毛でうねっている髪が一時的に真っ直ぐに矯正される。
「そんなの……」
「君は結局、桐谷先輩と花巻先輩の為に何かをするよりも、自分が悪者じゃない事実の方が大切なんだよ」
猿河氏は丁寧に丁寧に髪の毛を梳かし続けている。なのに私を言葉で責める。
「現状維持って実は一番ひどいよね。桐谷先輩にも花巻先輩にも不誠実。哀ちゃんにとって都合良すぎるし。いつかは二人とも傷付ける事になるの、本当は分かってるよね?それでもこのまま仲良しごっこを続ける気?意外とずる賢いからなぁ、哀ちゃんは」
「……」
「桐谷先輩なんてピュアすぎるから『鬼丸君がそうしたいなら…』て言ったら永久に待ち続けるよ、あの人は。あーあ、可哀想に。愛しの鬼丸君は彼氏と毎日ズッコンバッコンよろしくやってんのにね〜。あー、クソ女。アレが良いこと以外ほんと屑だよね〜君」
「………猿河氏、まだ私と犬塚でプチ逃避行したの根に持ってるよね…?その節はすいませんでした、って言ってるじゃん…」
「哀ちゃんの謝罪って、マジで軽いよね。雲かつって」
「う…」
「まぁ桐谷先輩とかの件は、もう一度くらいはっきりさせといてもいいんじゃない?二人の事嫌いじゃないなら尚更。犬塚よりかは片付け易いとは思うけど」
「……」
どちらにせよ全裸でする話では全くない。




