episode20 トラウマと父親
犬塚君は、恋愛ごととなるとてんでだめだ。
ちょっと冷やかされただけで瞬間湯沸かし器が如く怒るし、
告白されたら知恵熱出して寝込むし振るし、
あからさまな好意を匂わせるような事をされたら赤面して動けなくなってしまうし、
そして意識的なのか無意識なのか分からないけどそういう方面にとても鈍い。
本人自身も高校生にして「この先ずっと恋愛なんかしない」と早くも断言していた。
しかし、女の子が嫌いなのかと言われればそうでもない。最初こそツンツンしていた犬塚君だが、それは男女にだし、最近は結構普通に女子とも話す。料理とか編み物の話を割と興味津々に聞いていたのを見た事がある。
犬塚君が恐れているのは、誰かと恋愛関係になる事なのだろうか。性別を感じる事を拒絶するほどに。
なにかトラウマ的な事でもあったのかな、と多少勘ぐってしまう。
例えば、なんだろう…女性に襲われたとか。
ありえる。あの見た目天使かと見紛うほどの可愛らしさにやられる人はやられるのかもしれない。
「僕も小さい頃は殺人的な可愛さで襲われかけた事多々あるけどね、何度か誘拐未遂とかフジコちゃんの店の常連客にキスかまされたり。やばいわー、トラウマになったわー」
ちょっと、猿河氏うるさい。モノローグにまで入って来ないでよ。
とにかく犬塚君はこと恋愛事となると拒絶反応が物凄く、ガードもほぼ鉄壁なのである。
それは私にとって心強くもあり、支えにさせてしまっている部分でもあるんだけど。
犬塚君には恋愛観を捻じ曲げられる程の何かがあったのかもしれない。
もしもそれが犬塚にもう一度降りかかろうものなら、一体どうなってしまうのだろう。
そして、その時私はどんな行動を取るのか。
自分でも分からない。
何も変わらないで欲しいとは願っているけど。




