episode19 全く上手く行かない世界
猿河氏、ご乱心回
この美貌と、ある程度の器用さがあれば、この世の大抵のものは手に入ると思っていた。
馬鹿な事をしなければ、なんだかんだでイージーモードで一生を終えられるだろうと。
いや、あいつに会うまではその予定だったのだ。
形振り構わず感情を振り回されるような個体なんか見つけてしまったばかりに、こんなにも惨めで息苦しい。
鬼丸哀、同じ高校の同級生。一応、カノジョ。
凡庸でなんてことはない容姿だ、しかもメンヘラで超面倒臭い。頭も悪い。どんくさい。
さらには、別に僕を特別に思っているわけでもないし、あっちへフラフラこっちへフラフラとせわしない。不器用なくせに。
こんなのより条件の良い人間なんかこの世にゴマンといる。そんなの言われなくても、自分が一番分かっている。
ただ、鬼丸哀とする会話が一番楽しいだけだ。
顔を見てると食べてしまいたいような気持ちになるだけだ。
奴の瞳の中に映っている自分を見るのが好きなだけだ。
近くにいるとこじつけでも何でもいいから構いたくなるだけだし、それに触るとヤバい気持ちいいから。
僕がどんなに異質でも、それを理由に離れたりはしないから。
鬼丸哀はきっと異常な人間だけど、僕はだからといって嫌悪しない。
その関係が、あまりに有り難くて、大切なだけだ。
生殺与奪権ごとすべて彼女さえ完全にこの手に出来れば、自分のありとあらゆる欲求が満たされる。即ち幸福な状態になる。それが直感的に分かる。
しかし、それが出来ない・許されないこの世界は理不尽だ。
もう既に取り戻せないほど、自分の殆どは彼女が望まずとも簡単に奪われてしまっているのに。




