記憶のない人助け
数年ぶりに再会した友人
いつかあなたに命を救われた、と
言われ、なんのことか検討つかず
駅のホームであと一歩踏み出して
しまおうとしたら、携帯が鳴って
我に返ったのだと
あなたからの着信だったと、言う
記憶にない人助け
友人の勘違い、人違いじゃないかと
私は思って言ってみたけれど
友人は私からの着信だったと
それよりも
友人が消えてしまおうとしたことが
痛くて痛くて仕方なかった
あの日私は
友人の暗い眼差しと疲れきった頬に
なんとかなるよ
考えすぎだよ
なんて、気安く言ったのだ
いい加減な言葉は何故か記憶にあって
そんな私が奇跡的なタイミングで
友人を救えたとは思えなかった
きっと、あの子だ
いや、別の子だ
こみあげてくる申し訳なさが
否定せよ、と私に迫った
いいえ、あなただったと思う
本当にありがとう
確証はないのかもしれない
友人は私を信じているだけなのだ
自分自身を信用できない私を
微笑む友人はどこか儚げだった
あの日、
誰かが友人の携帯電話を鳴らさなかったら
この微笑みは黒に縁どられたのだ
重い事実にめまいをおぼえながら
友人とのひとときを噛み締めた