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花唄のオベイロン  作者: losedog
Chapter 1:〝ハミングウェイ〟
4/6

紫水色の彼女

 始まりは弓兵による面攻撃だった。

 膨大な弓の雨は音という領域を遥かに凌駕し、衝撃となって降り注ぐ。数という暴力は雷のような天災すら凌ぐ程の暴虐を内包し、誘き出された死体漁り達を死体に変えていく。

 重力を伴ってやってきたそれは、刺さる、という攻撃方法ではなかった。

 あまりの威力に、身体が(ひしゃ)げるのだ。

 眼球が飛び散って、砕けた歯が舞い、悲鳴と骨の砕ける音が交錯する。

 阿鼻叫喚だった。

 ぼうっと立っていたところを、彼女に引き倒されるようにして地面に伏す。頭上を風切音が轟き、目前に槌のような音を引き連れて矢が突き刺さる。


「ゲオルグッ! 死にたくなかったら動け!」


 臓物が、脳漿が、血潮が撒き散らされる地獄の中で彼女の声が凛と響く。襟首を掴まれ今度は引き起こされる。理解が及ばないということは、人に行動することを許さない状況だという事実を、いま、体験している。

 連続する轟音が、木と小さな鏃という簡単な造りである軽い矢の生む音だとは思えなかった。かつて地球で見た創作物のように、スマートに狙い撃つ武器ではない。どのようなイメージを抱いていたとしてもこの世界では――いや本来の目的は「数撃てば当たる」だ。

 この死の雨こそが、弓という武器の真の恐ろしさ。


「ゲオルグ!」


 彼女が、再び叫ぶ。

 死に抗うには、武器を手に戦い抜くしか無かった。

 腰に差していた、象牙色の得物を右手に握りしめた。これは、父と母を含む飛行機の乗客の果てた土地――あの見たことの無い生物が眠る天然の墓場、竜の墓場と彼女が名づけた場所で、一際大きい竜の頭蓋からこれまた大きな牙をそのまま持ち出したものだ。

 剣と呼ぶにはあまりに凶悪な雰囲気を有している。

 だが、ただの牙というには洗練されていた。生前に弱肉強食の世界を、天寿を全うしきった竜が戦い抜いた唯一無二の武器である。

 彼女がくれた銘は、




 ――竜剣。




 単純明快、竜殺しの剣でなく(どうぞく)も殺してきた竜の剣。天寿を全うした牙だ、あらゆる艱難辛苦を噛み砕く業物になるだろうとは彼女の弁。

 横で彼女も武器を抜くのが見えた。

 右手にはありふれた片手剣。

 目を引くのは左手の短剣だ。手の甲全てを覆う護拳(ナックルガード)を有するそれは左の護剣(マン・ゴーシュ)。逆手に握り、護拳の部分が盾のように幅を持つ造りは一目で特注品とわかる。

 彼女がとある死体から我が物にした短剣で矢を弾く。


「覚悟はいいか?」


 あれほど猛威を振るっていた矢の雨が止んでいた。雷を凌ぐ轟音も鳴りを潜め奇妙な静けさが場に満ちる。

 彼女の他にも数名、生き残った者が武器を構えて立っている。


「レベッカ・イシュマエル」

「フランツ・ガフガンだ」


 近くに立った死体漁りが唐突に名乗る。

 名乗ることは、背中を預けることだ。

 名前を聞いたという事実は、他人という領域を僅かながらであっても越えること。

 相手に信を置くということ。


「あたしは名無しなんでね――コレクターとでも呼んでくれ。連れはゲオルグだ」


 彼女の名乗りにレベッカとフランツが驚いたようだった。

 だが、そんな些細なことはどうでもいい。

 取り囲むホマレリア軍は遂に槍兵を前進させてきた。

 槍を付き出した構えでの突撃だ。

 先ほどの矢が生易しいと思える轟音と震動が響き渡る。

 その地震の震源は、意志を持って殺しに来る人災だ。





「もう一度聞くよ――覚悟は出来た?」



 彼女が嗤う。



「……死ぬ覚悟?」



 レベッカが静かに応じた。



「殺す覚悟か?」



 フランツが何を今更と呟いた。



「何が何でも、生きる覚悟だよ」



 最期に彼女が、決意を秘めて囁いた。





 槍衾が、死を引き連れて迫る中。

 彼女らがそれを掻い潜り、槍の担い手の喉を裂く。

 殺す、という意識は無いのだろう。

 生きる、という目的の為邪魔を排除する。

 いま、このとき、この瞬間。相手は人間ではなかった。

 認識が狂う場所。そこを地獄と呼ばずなんと呼ぼう。

 相手は地獄で死を撒き散らす鬼だ。

 そう言い聞かして、誰も彼もが鬼の形相で武器を振るう。



 その心の内で、涙と血を滂沱に流しながら。

 振るう武器が砕くのは、何か。

 相手か、己が心か、それとも。



 ただ生きることのむずかしさ。

 その過酷なまでの運命を、砕くのだ。



 その地獄の中で、何もできず片手に握りしめた竜剣を抱えるように逃げ惑う。戦うことだけが生にしがみ付くことじゃないと、この時は未だに信じていた。

 既にかつての平和に満ち溢れた世界から放り出された存在だというのに、未だに元の世界の理屈を大事に抱えていること。これが、己の最大の過ちだった。そうと気付かぬままに彼女の背中を死に物狂いで追う。

 同じように戦闘技術を持たない、ただ逃げ惑うしかない死体漁り達が槍に貫かれ後方へと姿を消していく。

 次は、己か。

 目を逸らしたくなるような現実のなかを、涙が滲んで視界の悪くなった状態で走る。恐怖で閉じそうになる瞼を、決して閉じまいと見開いて。

 頭の中に声が聞こえる。


『決して、目を逸らすな。その運命を括目して見よ――妖精の子』


 極度の緊張感からか、迫る槍、追う背中、駆ける脚、その全てが緩慢に見えた。水の中を動いているような纏わりつくような空気の感触まで感じられる戦場を死に物狂いで走る。

 槍兵の群れの中を掻き分けながら進む。怒号と誰のものか定かでない鮮血が舞い、服に、頬に、耳にこびり付く。

 そうして五十人ほどいた人数を二十にも届かない数に減らした死体漁り達が槍兵の壁を突き抜けた先で目にしたのは、身なりからして貴族とわかる集団だった。

 騎士だ。

 穂国の騎士は二種類存在する。

 貴族が代々拝命する正騎士と、手柄を立て、功を得た者が任命される従騎士だ。一〇人隊から五〇人隊の指揮官は従騎士が務めることが多い。

 だが、目の前の煌びやかな装飾の施された甲冑に身を包んだ集団はあからさまに正騎士だ。

 目の前の光景に思わず皆の脚が止まる。


「ギャッ」


 瞬間、真後ろに聞こえた声に振り向いて、即座に後悔した。

 後ろにいた男の口から飛び出す、血をテラテラ滴らす穂先。人の舌があんなに長いと思わせるように垂らしたそれは既に弛緩したためだろうか。大きく見開いた目からは眼球が零れ落ちそうだと思った。

 声にならない悲鳴が、漏れた。

 嗚呼、こんな声も出るのかと現実逃避気味にどこか遠くで思いながらも彼女の声だけが己の指針だった。この世界に来てからいつだって自分が頼りにしてきたのは彼女の言葉だ。


「止まるな! 突っ込むぞ!!」


 残り少ない生き残り達が怒号を上げて騎士へと突撃する。後ろからは槍兵が追いすがってくる。そんな結果が見えているような状況でも誰一人諦めて膝を付くことは無かった。泣きもせず武器を振るう。その後ろで泣きじゃくり「もうダメだ」と弱音を吐く己のなんと情けないことか。



 どれだけの距離を、時間を走ったか感覚では分からない。長いようで短いようにも思えるし、その逆にも感じる。とうに狂った感覚は当てにならないが自分たちの脚が止まったことは確かだった。

 聞こえるのは彼女を含めた生き残り数人の荒れた呼吸音。怒号も断末魔も武器を打ち鳴らす音もいまは途絶えていた。

 取り囲むのは兵士と騎士の集団だ。完全に包囲された状況に生き残り達は悔しそうに歯を食いしばっていた。

 ただ、己だけがどうしてこんなことになってしまったのか呆然と佇んでいた。

 異世界に来てから、何か良いことがあったのだろうか。死ぬ思いをしてこの世界に迷い込み、痛い思いをして街を駆けずり、苦い思いをして死体を漁るしかなかった。

 そしていま、何を思えば良いのかわからぬままに死の節目に遭っている。

 死体漁りという真っ当でない生き方をしているため多少荒事に慣れているなど、訓練を経た兵士や職業軍人とでも言って差し支えの無い騎士を相手に何の意味も無い。そもそもこんな場所に誘き出して討伐すること自体が異常なのだ。

 生き残っているのはレベッカやフランツ、彼女を含めた数名のみ。


「……なぜだ?」


 彼女の掠れて聞こえづらい声に応えたのは一人の騎士だ。


「お前たちが兵国の密偵であるという情報を得た。そこで国賊として我らが討伐することになったのだ」

「……そぉいうことか」


 こちらに近寄ったレベッカが肩に手を置いてくる。それだけで気遣われているとわかってしまった。つい先ほど名前を聞いただけの関係が、いまはもう一蓮托生の仲である。


「ゲオルグ……とか言ったっけ? まだ動ける?」


 無言で頷く。

 こちらの返事を確認してからレベッカは呟きはじめた。


「死体から得たものであれ武器や防具は軍隊にとって消耗品。ホマレリアの言い分が戦場で漁った物を兵国に売ったというものならば、私たちは裏から敵国を支援しているってことになる。ここ二十年で湧き出した〝膿〟を取り除こうって腹……?」


 独り言だからだろうか。レベッカの声は抑揚に乏しい。その感情に欠ける声音が聞くことに専念させてくれる。聞かせるように呟いたのは、不安を一人では抱えきれないからなのかもしれない。


「国賊の討伐となれば人数が少なくとも騎士の出動は認められる。しかも今回はクランクハイト。万全を期す包囲殲滅を行える広さ……確実に殺しに来たってこと?」


 殺しに来た。

 その言葉を聞いて冷や汗が噴き出た。肝が冷えるとはこういうことか。

 死の危険に恐怖する間にも状況は推移する。彼女が騎士に向かって吠えた。


「死体を漁ることで国賊呼ばわりされるよりも、あんたらが民の大部分を虐殺する羽目になるほうが真っ当じゃないのか!? みんなそうでもしないと生きられない! あたしらをなんだと思ってる! それでも同じ人間かっ!」

「そうだ! おれ達が好き好んで死体を漁っていると思ってるのか!? そうでもしねぇと生きられねぇ国にしたのはお前ら貴族じゃないのかよぉ!」


 死体漁り達の言葉を瞑目して受け止める騎士は、眉一つ動かさなかった。受けている言葉に何も感じないというように、心などないというように。

 そして、一言。




「貴様ら、自分が人間であるつもりか?」




 死体漁り達が、固まった。


「天上に(おわ)す神が居て、神に仕える天使が居る。地上に彼らの血を引くとされる我ら貴族が居て、我らに管理される人が居て、人に飼われる奴隷が居る。飼われもせずにただ死体を啄ばむ輩が畜生にも劣る存在だと何故わからん?」


 皆が歯を食いしばって静かに涙を頬に流すのは、怒りからだろうか。

 違う――悔しさだ。

 なぜ同じ姿かたちをした者にここまで貶められねばならないのだろう。

 言葉を話す。涙を流す。痛みを感じる。感情がある。紅き血潮が流れている。

 あと何があれば、「人間」なんだ?


「さっさと死ぬがいいわ。さぁ……」


 騎士が無情にも命令を出そうとしたとき――



 ざわり、と空気が変わった。



 彼女の背中から朧気な光の線が飛び出たのだ。

 それは次第に弧を描くように丸みを帯びてある形を取る。

 翅だ。部分部分が鋭角的ではあるがアゲハチョウの翅に酷似していた。

 色は煌々と輝く瞳と同じ、紫水色(アメジスト)

 それを見た騎士、兵士、死体漁りの全てが例外なく慄いた。


「お前っ……妖精種! 異世界人かっ!!」


 そんな姿の彼女は初めてで唖然としていると、


「ゲオルグ、最後の教えだ」


 彼女の顔がこちらを向いた。

 場違いにも、綺麗だと思った。こちらを捉える瞳に魅入られそうになる。


「この世界に魔人と呼ばれる民族が居ることは知ってるね?」


 レベッカがそうなのだろう。彼女の耳は鳥の翼のように羽毛に覆われ横に伸びている。瞳の中の瞳孔も縦に長い。何らかの外見的特徴を持つ人を総じて魔人と呼ぶのだと過去に聞いた。


「それに倣い異世界人は妖精種と呼ばれる。潜在的特徴を持つとされ忌み嫌われる人種――いまあたしが背中に生やした翅のようにその特徴を具現させることが人種としての能力らしいな」


 その変化が潜在的特徴を能力として表に出したのだと物語る。朧な翅は確かに幻想的に見えるかもしれない。


「身体能力に、知覚能力に、学習能力にこの世界とはズレがあるのさ」

「死ねよ! 化け物!」


 彼女の変貌に怖れたのか、騎士の指示もなく一人の兵士が躍り出た。彼の突き出す槍が一直線に彼女の背中へと奔る。

 ようやく未だ窮地に立たされたままだということを思いだし、彼女に向かって声を上げようと息を吸い込んだ瞬間、


 彼女の身体が翻る。


 背中に生える翅の紫水が残像になる勢いだった。回転した彼女の脇を紙一重で槍が過ぎ、勢い止まらぬ兵士が彼女とすれ違い――首から鮮血を噴いて崩れ落ちた。

 彼女は地に伏す兵士を一瞥し、


「女相手に化け物だなんて傷つくじゃないか」


 紫水の瞳が骸から煙のように湧き出た〝なにか〟を吸い込んだ。


「……貴様〝死体漁り(コレクター)〟か!」


「あの悪名高い妖精か!」

「死者の知識を、技を奪う不届き者め!」

「死者を辱める化け物が!」


 穂国軍がいまの現象を見て彼女に向かって喚く。彼女はうるさそうに顔を顰めただけだった。


「あたしの潜在的特徴は〝朽ちたモノより学ぶ者(メモリー)〟。生き物にしろ、物にしろ、それが死んでしまったものならば、あたしの妖精眼はソレが生前に体験した全てを修習する。あたしの妖精翅はそれら全てをあたしの身体に再現させる器官」

 

 彼女の手がこちらの頬を撫ぜる。初めて触れあった肌は、過酷な環境のため互いに荒れて乾燥していた。だけどそこには確かに温もりがあった。


「それが祝福になるのか呪いになるのか……あたしにはわからない。少なくともあたしにとっては呪いだったから」


 死体を、廃棄物を見て生前の経験を奪うかのように習得するその能力は一体どれだけの人間に忌み嫌われたのだろうか。彼女も異世界転移した存在だとは知らなかったが、自分とは違い彼女には自分で言う「彼女」に相当する人物はいなかった筈だ。

 自分に教えてくれたことのどれだけが、死体を見てきたことなのだろう。

 異世界に放り出された女の子が、目も反らしたくなる光景を見て学ぶしかなかったのだと思うと、知らなかったとはいえただ縋っていた自分が憎らしい。


「得られる力に、宿した力にリスクがないなんて無条件の優しさは空想に過ぎないことをあんたは身をもって知っていると思う」


 彼女が自分の話す言葉を知っていたということは同郷の死体を見たか、あるいは――


「別の世界に渡ったからと言って、それを体験した人間が世界で特別なんかじゃないことを身をもって知ったはず。現実が、この世界がそんなに優しくも甘くも無いことを体感したはず。異世界転移は憧れるようなものじゃないことを郷愁と別離の果てに思い知らされたはず」


 彼女も日本人か、だ。




「だから心に――留めて欲しい」





「特別っていうのは優れていたり、恵まれたりする人間のことだけじゃない。怖れられることでも、尊敬されることでも、負の感情だって、そうじゃなくたって――それを判断するのはいつだって他人だ。

特別という言葉に思い上がるな。自惚れるな。その言葉はただの評価で人の本質を表していないんだから。特別なんてもの、個性という言葉に強引に置き換えてしまえるほどにちっぽけだということを忘れるな。

 個性じゃ、人との差異程度じゃ、運命は揺るがない。国はそんなに軽くない。世界はそんなに狭くない。

 あたしたち妖精種(いせかいじん)はなにも特別なんかじゃない。ただ少し変わった潜在的特徴を発現した人間でしかない。

 だから――」



「――だから、あなた自身を見誤らないで。来栖譲二」



 本名はあまり他言するなと言ったはずだ。ゲオルグだろう?



「これがあたしという――長谷川花音という自分の人生を見誤った先輩からの最後の教え」



 やめてほしいと切に願う。どうして今になって、こんな時に名前を教えるのか。それにその名前は……



「あなたの妹さんと同じ名前だから絶対言わないって決めてたんだけどね。ごめんね? でも……酷かもしれないけれど……」



 彼女の――花音の頬を透明な滴が流れ落ちた。徐々に口調が柔らかくなっていることに気づいているのだろうか。



「せめてこの世界であなただけでも、あたしという人間がいたということを覚えていてほしいの。あたしがこの世界で生きた意味は、あったかなぁ……?」



 あったと叫んでやりたい。花音が居なければ生きていられなかっただろう。色々なことを教えてもらったことにはどれだけ感謝しても足りない。



「男の子でしょ? これからはなるべく泣かないで、強く生きて。同じ日本人。短い間だったけど弟が出来たようでこの世界に来て初めて楽しいと思えた。ごめんね? 死体を漁って地面を這いずるような生き方しか教えてあげられなくて……」



 悪いのは花音じゃない。状況が、世界が選択肢をくれなかった。生きるという行為のなんと尊いことだろう。頬を滴るものを、止められない。


「さぁ、行って。何が何でもあなたの未来を創るから」


 その言葉と同時、何者かに担がれる。フランツだ。すぐ傍にはレベッカも寄り添っていた。


「礼を言う。あなたの命を賭した行いを見捨てるしかないことを許してほしい」

「礼はいらないよ、レベッカ。あたしの人生、その意味を為すだけだ」


 あの口調が彼女の素だったのだろう。粗野な口調はこの世界で身に付けた鎧なのかもしれない。過酷な状況に押しつぶされないように身に付けた言葉遣い。

交わされる会話を聞くしかできない自分。話したいのに口は動かず、聞こえる声は他人のものばかり。


「この坊主を生かすことか?」

「ついでだ、あんたたちの分も暴れてやる」


 そして彼女はこちらに背を向けた。


「……もう、疲れた。死と隣り合わせの人生は」


 彼女は諦めている。生を謳歌する人生を。


「でも、誰かの背を押す死でありたい」


 それでも生きる覚悟と死ぬ覚悟を括っていた。

 この場から自分を逃がす役目に生きる覚悟。

 この場で自分の未来ために死ぬ覚悟。



 人生とは、命を賭して生きること。

 そんな当たり前なことさえ忘れてる。

 人生の中で命を懸けるような出来事が起こるのではない。

 生まれた瞬間から人は命を懸けた人生(ストーリー)で主人公を演じてる。

 全力で生きるとはそういうことだ。



 背中で語る彼女の姿が遠ざかる。穂国軍はたった一人の女の子に睨まれて動かなかった。遠目に見た彼女の最後の姿は、命の全てを燃やすように紫水色に瞬いた。


とりあえずここまで。

書きためはもう少しありますが、かなり中途半端なので……。

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