06 フラグの向かったその先は
(この状況……もしかして、やばい?)
私は表情だけは平常心を保ち、頭ではかなり悩んでいた。
そう、よくよく考えると私の今の体勢は、屋上にいた主人公と米原真沙斗が出会うシーンとそっくりなのだ。
つまりこの二人が出会うイベントを、私がやってしまっていることになる。
そう悩んでいると、徐々に近づいてきていた真沙斗が口を開いた。
「あの、愛留奈先輩…ですか?」
「え、何で名前を知って……」
私が思わずそう言うと、真沙斗はしまったという顔になった。
私はゲームをやっていたから名前を知っているが、本来は初対面なのだ。彼が私の名前を知っているはずがない。
となると…香里奈の叫び声を聞いていたか。あの時私の名前も叫んでいたはずだし。
それを理解した瞬間私は「なるほど…」と呟いて、彼を手招きした。
そんな私の行動を見て真沙斗は首を傾げた。あ、なんか小動物みたいで可愛い。
「隣、座れば?」
「………………………はい?」
なんか今、間がすごく長かった気がする。
真沙斗はオドオドしながらフェンスに寄りかかるようにして座った。
あ、一応自己紹介しておいた方がいいか。
「言っておくと、佐渡山だから」
「え?」
「私のフルネーム。佐渡山愛留奈だから」
「あ、えっと、米原真沙斗です。よろしくお願いします…佐渡山、先輩?」
「さっきみたいに愛留奈で良いから。よろしくね、真沙斗君」
そう言って微笑むと、何故かいきなり真沙斗の顔が真っ赤に染まった。
どうしたんだろうか? もしかして、熱があるとか?
そう思った私は彼の額に自分の額を当てた。
「んー、熱はないみたいだね…」
じゃあどうしたんだろう?
そう思ってチラリと彼の顔を見てみると、さっきよりも赤くなっていた。本当にどうしたんだろう?
とりあえず大丈夫そうなので一旦離れて彼の顔を覗きこむようにして見た。
「それで、どうしたの? 何か用事でもある?」
「え? あ、あの! 食堂ではありがとうございました!」
私が問うと、地面に頭をぶつけて出血してしまうんじゃないかと思うくらいの勢いで頭を下げた。
食堂って、もしかして食器を一緒に拾ったこと? 気にしなくていいのに。
「気にしなくていいよ。あれは私が勝手に拾っただけなんだから」
「だとしても、助かりました。本当にありがとうございます」
「……どういたしまして」
なんか、すごい照れる……。
急に恥ずかしくなってそっぽを向いて素っ気なく返答したが、目をパチクリさせながら真沙斗は覗きこんできた。
「もしかして、先輩……照れてます?」
「て、照れてないから!! じゃあね!!」
言われて余計に恥ずかしくなったので、私はその場から消えるようにして立ち去った。
だから私は恥ずかしさに負けて、考えもしなかったのだ。
この時の米原真沙斗の気持ちが、自分に向いてしまったのではないかという可能性に。
香里奈に対してではなく、自分に対してフラグがたってしまったのではないかということを――――。