05 動悸の正体
今回は真沙斗視線です。
あれは本当に、一目惚れだったのかもしれない。
(あーあ、やっちゃった……)
僕は落ちた食器を見ながら、そう思っていた。
暗い性格でいつもどんくさくて頭が良い訳でもなくて運動が全くできなくて……自分が自分を嫌になる。
溜め息をついて食器を拾おうとすると、不意に反対側から手が伸びてきた。
驚いて顔を上げると、前髪で顔はよく見えなかったが、縛っていてもしゃがむと髪が地面についてしまっているくらいのロングヘアーを二つに縛っている女子がいた。
この学園はネクタイの色によって学年が違うので、この人はネクタイが青色だからおそらく上級生なのだろう。
「あのっ、ありが――って、いない!?」
慌ててお礼を言おうと顔を上げてみると、いつの間にかいなくなっていた。
(ええええええええ!? ちょっ、いなくなるの早すぎじゃないかな!? それともこの早さが普通なの!?)
「あーっ! 愛留奈ちゃんがどこかに逃げちゃったー!」
「え?」
頭が混乱している時、そんな叫び声が聞こえてきた。
そっちの方を見てみると、さっきの人と同じネクタイの色をした女子と、生徒会のメンバーがいた。
感じからして、後にあの人……愛留奈先輩を探すのだろう。
僕もあの人に会いたかったので、急いであの人を探すために校内を駆け回った。
「後は、屋上、だけか……」
校内を駆け回ったが、先輩の姿はどこにも見当たらなかった。
じゃあどこに? と思ったが、この時僕は屋上を探していなかったことに気づいた。
あの時は慌てていて考えもしなかったのだが、よくよく考えると食堂から階段を上って一直線に行けば屋上へ辿り着くことを思い出したのだ。
息を整えながら、僕は屋上の扉を開けた。
扉はギィ…という音をたてながらゆっくりと開いていく。
屋上を覗いてみると、フェンスの近くに座っている愛留奈先輩を見つけた。
驚いてこっちを凝視している先輩に近づきながら、改めて姿を再確認する。
うん、全てにおいて食堂で食器を拾ってくれた先輩だ。
「あの、愛留奈先輩…ですか?」
「え、何で名前を知って……」
しまったぁぁぁぁぁぁぁ!! 僕は食堂で名前を聞いたから知っていたけど、実際先輩とは初対面なんだから知っている方がおかしいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁ!!
そう考えていると、先輩は何かを察してくれたのか「なるほど…」と呟いて僕を手招きした。
「隣、座れば?」
「………………………はい?」
え? 隣? 先輩の?
なんか、僕なんかが座って良いのかと思うんだけど……。
しかし許可が降りたんだから、座らないと失礼、かな?
僕はゆっくりと先輩に近づき、フェンスに寄りかかるようにして座った。
「言っておくと、佐渡山だから」
「え?」
「私のフルネーム。佐渡山愛留奈だから」
「あ、えっと、米原真沙斗です。よろしくお願いします…佐渡山、先輩?」
「さっきみたいに愛留奈で良いから。よろしくね、真沙斗君」
そう言ってフワリと微笑むさと――愛留奈先輩。
ドクン…
あ、れ? 何だろう? 急に動悸が早くなってきた。
そんな僕を見て、愛留奈先輩が僕の額に自分の額を当てた。
「んー、熱はないみたいだね…」
(う、うわわわわ!?)
これによって僕の動悸はさらに早くなり、頭もすごく混乱してきた。
そして僕は後に気づくのだ。
この動悸が、恋だったということに――――。
次回は今回の屋上の出来事を、愛留奈視線で書きます。