01 フラグと出会い
クラスでの自己紹介というものは、普通ならば『友達を作りたいから印象を良くする』と大抵の人は考えるだろう。
しかし私――佐渡山愛留奈は、あえて印象を良く見せてはならない。何故なら、それによって主人公と親友になれるかどうかが決まるのだから。
ゲームでは、主人公が名前と一言を言って終了した佐渡山愛留奈に惹かれる、といった具合だ。
正直、どうしてその淡々とした自己紹介をすると惹かれるのかは不明だが、そこは気にしないでおこう。親友になってしまえば事は上手くいくのだから。
だから今回の自己紹介で私は、主人公の気持ちを自分へと向かせる、淡々とした挨拶をしなければならない。
まあ、その時佐渡山愛留奈がした挨拶を覚えているから、どんな挨拶をしようなどと考える必要はないのだが。
そんなことを考えている間に前の人が座ったのを見て、私は無言で席から立ち上がる。
「佐渡山愛留奈です。よろしくお願いします」
ただ、それだけ。その一言だけで佐渡山愛留奈の自己紹介は終了する。実際ゲームでこう言って終わっていたのだから、別になんの問題もないだろう。
座る時にクラス全体が凍りついたような空気になったが、そんなの関係ない。
これは主人公と親友という関係になるための伏線なのだから、それでクラスから浮いたとしても、主人公と親友になれるなら別に構わないのだから。
その予想は的中し、先生がいなくなって各自が自由に他の人の席に行って友達になろう、などと声をかけているであろう時に、突然目の前に人影が現れた。
顔を上にあげればそこには主人公――三宅香里奈がいた。
容姿は360度回転して見たとしても顔は可愛いの分類であり、見かけに反して成績優秀、運動神経抜群という完璧少女だ。
「はじめまして! 自己紹介は……した方がいいのかな?」
「その必要はないです。三宅香里奈さん、ですよね」
「あ、聞いててくれたんだ! 良かったー!」
私がそう言うと、ホッと胸を撫で下ろす。これで香里奈の好印象をゲットしたから、あとはこのまま一緒に過ごしていざという時に恋愛相談を聞いてくっつければいいだけだ。
このままいけば憧れを現実にすることが出来ると、そう思っていた。
私は知らなかったのだ。
ゲーム世界での香里奈が、現実ではかなり鬱陶しいと感じさせる存在だったことを。