04#前日
ズズズズ…
扉はスライド式で重い音を響かせながら開いた。
「見た目程重くはないでしょ?」
と、幹村さんが言う。
確かに鉄でできてはいるが、ある程度の力を加えればあとは惰性で開くという感じだ。
俺達は次の部屋に足を踏み入れた。
ガゴォン…扉は手を離すと再びゆっくりと閉まった。
またしても部屋には何もない。
俺と幹村さんはさらに次の部屋へ歩を進めた。
*****
何個部屋を回っただろうか、依然何もない部屋ばかりで俺達は自然と無言になっていた。
不意に幹村さんが口を開いた。
「そういえば…ここに入れられる前の日の事覚えてる?」
「…え?」
確かに…今更だがその事を思い出した。
一瞬止まった足を再び進めながら俺は答える。
「昨日は…今日が学校が休みだったから友達と遊びに行って、その後は一番仲のいい友達の家に泊まりに行きました。そして、そいつの家で眠って…起きたらこんな訳のわからない所に閉じ込められていて…」
そう言いながらまた扉を開く。
今思えば昨日の当たり前の日常がとても懐かしい…。
なぜ、普通の生活を送っていた俺がこんな事になっているのか皆目検討もつかない。
外では騒ぎになっているのだろうか?俺の両親はいない…幼い頃に交通事故で早くに逝ってしまったのだ。その後は親戚のおじさん夫婦に引き取られた。そんなに勉強ができるわけでもなく、自慢できることも少ない俺を二人は本当の子供のように育ててくれた、可愛がってくれた、人の愛情を感じてこれた。だから今まで俺は生きてこれたのだ。
…しかし、今のこの現実は、その幸せ全てを否定するかのように重く影を落とす。誰か…頭のおかしい者の手によって…。
最後に発した言葉からどれ位経っただろうか?俺はハッと我に戻り幹村さんを見た。俺はかなり険しい顔をしていたのだろう…
幹村さんも様子を察してか、黙っている。
俺は幹村さんも昨日何をしていたのか気になって…というかこの空気が嫌になって聞いてみた。
「あ!幹村さんは昨日の事、覚えてますか?」
やっと口を開いた俺に安心したように幹村さんは答える。
「僕は昨日は大学に提出するレポートが溜まってたから、ずーっとそれをやってたんだ。さすがに一日中やって疲れたから、小休止しようと思って眠って…そして目が覚めたらここってわけさ。」
そう言って幹村さんはため息をつく。
「やっぱり二人とも眠ってる間に連れてこられたんですね…」
もう何回開けたかわからない扉に手をかける。
時計を見ると… PM07:58。
30分近く歩き続けたらしいが何も発見はない。
少し考えて幹村さんが言う、
「一樹君はどこの高校だったの?」
と、聞いてきた。
「俺は◎◎工業高校ですよ?」
と、答えた。ちなみにうちの高校は新体操が強いことで有名だ。
全国大会にも何回も出場しており必ず上位にくい込むという、うちの高校の誇りである!
かくゆう俺もその新体操に憧れて入部した経験もあるが、鬼のような顧問と超ハードな練習に耐えきれず一年の終わりには退部してしまった。そんなこんなで今は帰宅部というポストにも慣れたころだった。
うちの高校の事は幹村さんも知っているようで、「あの新体操が強い学校だね!」
と言った。そして、
「僕は〇〇大学なんだけど…。」
と言ってまた少し考えこんだ。
「それがどうかしたんですか?」
俺は何を考えているのか気になり思わず聞いてしまった。
「いや、考えてみたんだけど、無理なんだよね…君の高校のあるM県と僕の大学のあるT県の距離と移動時間を考えたら一晩で二人をさらうのは…。」
確かにその通りだ。二つの県はかなり離れている、一晩でその両方にいる二人を誘拐するのは物理的に不可能だ。
つまり…
「「犯人は一人じゃない。」」
二人は同時に思ったことを口にした。しかし、それがわかった所でなんの解決にもならない。むしろ、敵の存在がさらに大きなものになるような気がした…。
二人ともそれを感じたのかそれ以上は口を開かなかった。
俺は気を取り直し、
「進みましょうか!」
と、もう見飽きた扉を開いた。
「あっ!」
俺は扉の向こうの光景に思わず声が出た!
部屋の隅っこに女の人がうずくまっている。幹村さんも気付き、互いに黙って頷いて女の人に歩み寄る。
不意に、女はうつむいていた顔を上げた…
俺達は驚いて足を止める。時刻はPM08:05…。9時まで一時間を切っていた…。
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