03#小さな発見
『安全じゃなくなる』
恐らく、それは俺達の命が保障されなくなるという意味だろう…。
その境界線は、PM09:00
幹村さんの時計では、今PM07:25だ。
…残り時間は1時間35分
手掛かりは方位磁針。
だが磁針は動く気配はない。
俺と幹村さんは、とりあえずこの部屋を出ることにした。
「僕は、あの扉から入ってきたんだ。特に気になるような物はなかったから、別の扉を進んでみよう。」
幹村さんが指差したのは、俺からみたら真正面にある扉だった。
選択肢はあと三つ、右か、左か、後ろだ。
二人とも少し考えて…
「右にしな…」
「左はどう…」
「…………………。」
見事にカブった!
…気まずい。
こんな時、自分の考えを押し通しせる人間というのが羨ましいと思ってるいる俺がカブってしまった!?
俺は譲り合いの精神というものが妙に育まれてしまっているのか、こういう場面がとても苦手だ。
…ここは幹村さんの言ったように、『右』にしようかと視線を幹村さんに戻すと、向こうも恐らく同じような事を考えているようだ…。
よく考えれば幹村さんはあまり物事を強く述べるタイプには見えない。
例えて言うなら気の弱い優等生タイプだ。
幹村さんは眼鏡を気まずそうに上げ、ちょっと苦笑しながら言った。
「…左に進もうか?」
俺はなんだか気の毒になり、
「いや〜俺、右でいいですよ。」
と言ってしまった。
また少し気まずい空気……。
こういう時の返事を選択ミスしない人間になろう!と、俺は誓った。
自然と二人の視線は、最後に残った後ろの方の扉に向かっていた。
「この扉にしますか…」
俺が言った。
幹村も頷き、結局後ろの扉に落ち着いた。
二人とも苦笑しながら扉を開けようとしたその時、俺は扉の上に小さい文字が彫ってある事に気付いた。
「南」と彫ってある。
ということは…
俺はまだその文字を見つめている幹村さんを見送って他の扉の上を見た。
右の扉には
「東」
左の扉には
「西」
幹村さんの入ってきた扉には
「北」
と、彫ってあった。
幹村さんが口を開いた。
「方角はわかるようになっているようだね…。」
俺はポケットに入れていた方位磁針を取り出したが、依然磁針はピタリと止まっている。投げ捨てたい衝動を抑えて、方位磁針をポケットに押し込んだ。
俺達は溜め息をついて、
「南」
と、記された鉄の扉に手をかけた。
時計はPM07:40を回ったところだった…。