換金所、にて。
目を覚ますと、木目の壁が見えた。
「…朝、か」
うん、今更夢落ちとかも期待しません。
私の中で、神しゃまがはしゃいでいるのが分かるし。
更に私の腕の中には、リージがいるし。
……うん。リージの家で、今は亡き両親のベッドは存在するものの、使い物になる布団はリージのベッドの物だけだったから。
並んで寝ていたけど、狭いのと夜はちょっと冷えたので、湯たんぽがわりに抱き込んだらしい。
まぁ、リージも私の胸にしがみ付いてるけど。
………顔を埋めるほどの膨らみも谷間もないけど、一応柔らかみはあるから気持ちいいんだろうね…手のひらがしっかりと…………
私はそぉっとリージの手を胸から外して、抱きしめていた腕を解き、身を起こした。
女として反応が間違っていようとも、襲われたばかりで怖がってる子供を突き放せるわけがないから、気にしない。
服を着替え、装備を確認する。
ゆるく三つ編みにしていた髪を解き、櫛をいれているとリージがもぞもぞと身動ぎして身を起こした。
「…あ、ヒイラギさん」
「おはよう、リージ」
「おはようございます」
リーン、ゴーンッと鐘がなって、教会が時を知らせる。
9時だ。
ちょっと時間がかかってしまったのは、手元にあるビーズ作品のせいである。
うん、よく考えたら換金するような物、持ってなかったんだよね。
鞄の中に入れっぱなしだった友人への誕生日プレゼント製作用の、ビーズ装飾道具一式で簡単に指輪をいくつかとネックレスをいくつか作り上げました。趣味なので…と、いうか初めて作った時から誕生日プレゼントにねだられる。友人の手持ちのアクセサリーは、ほとんど私の作品だったりする。
いつかは調金も始めたいのだが、予算が……うん。
ともかくリージにも売れると保障してもらったので、売りに行きます。
換金所はギルドの隣の家でした。
「すげえな、あんた細工師か?」
背の小さい、赤毛にネコ耳のおっさんが感嘆の声を上げた。
……体系はドワーフっぽいのにネコ耳、で、ある。
奇妙に似合っていて、ごついおっさんが妙に可愛い。
「いえ、細工師というわけではありません」
リージに私が作ったと聞いたからだろう、おっさんのセリフに首を振った。
「しかし、始めて見るな、こんな小さな石をより合わせて作ったアクセサリーは」
「そうですか?」
「ああ、大きさをそろえるのは勿論、穴を開けようとしたら砕いちまうぞ、この大きさじゃあ」
宝石は大きい方が価値があるんだが、細工師の技術の価値がこれにはあるな…なんて呟かれ、沈黙する。
うん、ビーズです。天然石も混ぜてるけど、数百円で買えます。
評価されるのはそこか…と、少しがっかりしていると、おっさんは更に口を開いた。
「なんといっても綺麗だ。こりゃ貴族や王族にだって売れるぞ?こんな所だと、金貨二十枚で精一杯になっちまうし、正直今家が出せる全資金になっちまって、買いとれねぇんだが…」
綺麗と言ってもらえて、気分は良くなった。
「あ、じゃあ一個で」
とりあえず一番小さな指輪を指さしてみる。
…うん、金貨一枚で家族四人が、一年楽に暮らせるんだよね?
昨日酒場で聞いたお金の価値を、思い出して苦笑する。二十枚なんて貰っても困る。
「いや…一個で金貨二十枚なんだが」
「…………」
私は目元を揉んだ。
リージの顔色も、少し悪い。うん、こんな値段付けられるとビヒるよね?
私が朝、起きてから…無造作に作り上げてたの、見てたものね。
ネックレスを三個、指輪は十二個作った。
……総額、考えたくない。
「……私の故郷では、この石も細工もそう珍しくはないので、もっと安く買い取ってもらいませんか?」
「いや、できねぇ、こんな凄い物を安く流通させられねぇ。あんたの故郷では珍しくなくても、俺が初めて見るアクセサリーだ、故郷は大陸とまったく取引をしない島なんだろう?そうゆうとこ特有の技術は基本、何でも高価になっちまうんだ」
「…私から安く買い取って高く売るってわけには…」
「ばーろー、いくわけないだろうがっ、鑑定士のスキルを失うわっ」
あ、もしかして換金所を経営するには、詐欺が出来ないようなスキルが必要なんだ?と、納得する。
うん。スキル…存在するんだ……本当、ゲームだね。
「そのスキルで金貨二十枚、ですか」
「ああ、俺が生きてる間、これ以上は現れないって分かるレア・アクセサリーだ」
レア……まぁ、異世界の物だものね。私が道具を創造しないかぎり、現れるわけがないか。
「あ、じゃあ、こっちの石だけってのなら売れますか?」
余っていた残りの石と、ビーズを取り出す。
「そうだな、これなら金貨五枚で買い取ろう」
うん、指輪を作るにしても必要数に足らない数だったけど…この世界の装飾物に混ぜてなら、使い所はあるだろう。買い取る場合は、金貨七枚になるらしい。
金貨を五枚貰い…
そのうちの一枚を、銀貨八枚と銅貨二十枚にしてもらった。
現在の所持金、金貨四枚・銀貨八枚・銅貨二十枚、硬貨は零である。
ちなみに換金所のおっさんは、レリーフの親父さんだとリージに聞いた。
ああ、そういえば同じ赤毛にネコ耳……奥さん、背の高い人なんだろうな…と、思った。