私と、異世界一日目終了。
「あ、こいつら最近、他所から流れてきた冒険者だわ」
ネコ耳の女性、レリーフさんが転がしておいた奴らを見て言った。
「しかし、こんなにぐるぐる巻きにするの、面倒じゃなかった?」
「いえ」
私は木に繋がっている蔦へと手を置き、技名を唱えた。
「つるのむち」
蔦は思い通りに動いて、芋虫状態から起き上がって歩けるくらいの拘束へと変え、プチリと蔦を切らせた。
「あんた、精霊術師っ?」
「いえ、私の島に伝わる魔法です」
ちょっとぎょっとした様子だった兵士さん達二人も、私が何でもないことのように言うと、やることを思い出したのか男達に手をかけた。
「おい、立て」
意識は取り戻していた男達は、身動ぎして唸る。
「そこのガキに襲われたせいで、動けねぇんだよ」
「被害者は俺達だっ」
うん…しらばっくれるつもりなんだ?
私は冷笑を浮かべていたし、隣ではレリーフさんの髪がボワリと膨らみ広がった。
「…じゃあ、なんで、あんた下半身露出させてるの?」
酷く甘ったるく、けれど恐ろしい響きを伴ってレリーフさんの声が響いた。
私もリージも『襲われた』としか言わなかったけれど、芋虫状態から脱した後の、男の格好に予想がついたのだろう。
確認するかのように視線を送られたので、一つ頷くことで肯定する。
私達の様子に危険を感じたのか…兵士達二人が、ずさっと男達の側から離れた。
「そうか、動けないなら仕方ないよね」
チャキリッと、刀を抜き…
レリーフさんは腰につけていたグローブを、手にはめた。
「いらないモノ、切り落とせば軽くなって動けるようになるかな?」
「あら、あたしが全身マッサージ、してあげてもイイワよ?」
ふとレリーフさんと目が合い、微笑みあう。
それから数十分、醜い悲鳴と命乞いが、心地よく森の中に響いた。
再び村に戻る頃には、日が落ちかけていた。村の入り口に近づくと…小さな人影が待っていた。
「ヒイラギさんっ」
「リージ?」
満面の笑みで駆け寄ってきたリージは、兵士に引っ立てられた囚人の影にびくりとして足を止めた。
しかし、悲鳴を上げたのは三人の男達の方だった。
「ひぃっ、ごめんなさいごめんなさいっ」
「許してっ、許して下さいっ」
「た、助けてっ、助けて…っ」
…頭が可笑しくなったかのように同じ言葉を繰り返す姿が、ちょっと気味悪かったのか…大きく避けるようにして私の脇へと並び、手を握った。
兵士さん達も少し疲れた表情で「ではここで、ご協力感謝します」「ほら、いくぞ」と、詰め所へと彼らを誘導しつつ去って行った。
「リージ、休んでなさいと言ったのに」
「いえ、その…何だか、ヒイラギさんがいないと落ち着かなくて…」
真っ赤になって、恥ずかしそうに言うリージに、レリーフさんが「くはっ」と何らかのダメージを受けていた。
友人を思い出すなぁ…その反応。
まぁ、ともかく
「仕方ないな。…とりあえず、まずは換金できる所…か。いい加減お腹すいた…」
それに眠い。こちらに来たのは下校途中だったし、とっくに夕飯食べて寝て、朝食食べて学校行って…な、はずだ。
「あっ、あのっ、ご飯なら僕が奢りますっ!宿だって僕の家に泊って下さいっ」
「え、でも、年下の子にたかるのは…」
ぽんと肩に手を置かれる。振り向けばレリーフさんが笑っていた。
「いいじゃない、奢られてあげなさいよ」
「レリーフさん」
「レリーフでいいわよ、あんた気に入ったし。あたしもヒイラギって呼ばせて貰うわ」
そう言うと、二人して引っ張られギルドへと戻ることとなった。
ギルドは込む時間なのか、席は満席だったが、昼間のレリーフのつれだった三人が手を振り、そのテーブルに混ぜてもらうことができた。
リージの奢ってくれたパンとスープは、凄く美味しかったし。レリーフが仲間達の注文したお酒のつまみや肉料理を、私とリージに取り分けてくれたりもして…お腹はいっぱいになった。お酒を飲まされそうになったけど、民族上の掟でと断っておいた。
うん、未成年うんぬんの問題ではなく…友人に一度悪戯で飲まされたことはあるけど、記憶がなくなったからだ。それだけならともかく、翌朝の友人が恍惚としていて、女同士も有りかも…と、呟いていたのがちょっと怖かったのだ。
考えたくないけど、ショタコンっぽかった友人が、バイになった原因…酔った私なのかもしれない……本当に私、何をした?
ちなみに『私』の衣服に乱れはなかった。友人は半裸だったが。
…一生、思い出さなくていいことなんだろう。