旅人、続いてます。
さて、洞窟を抜けるとそこは山の中だった。
地底湖のような場所だったそこは、山の内部でも頂上付近だったようだ。
空は青く、木漏れ日溢れる木々と…洞窟内ほど大きい物はないが、至る所から生えている水晶…
森には道らしき道がないので、川の上を歩く。
…うん。普通(?)に、沈まずに水の上に立てた。
漫画とか小説なんかに見る、超常現象的なことは一通り出来そうである。
しかし近場の村に向かうのは良いとして、今の私の格好は旅人向きではない。
セーラー服に学校指定の鞄。
実はずっと手に持っていた。
だって、ココで気づく前までは下校途中だったんだもの。
洞窟内は寒かったから、コート着用でもよかったけど外はちょっと温かくて、下山したらもっと温かいだろう。
春っぽい空気だ。
向うは冬、二学期後半だったのだが……
とりあえずマフラーを外して、鞄の中に突っ込む。
薄手の鞄はそれだけでいっぱい。不格好に膨れた。
中には携帯と財布、空になったお弁当箱くらいしかはいってないのに。
リュック、欲しいな…
自分の私物である黒いリュックを思い出す。旅行用でそれなりに大きい。
すると、目の前で『力』が発生した。
力としか言いようがない。
空気の密度が変わったような…神しゃまの力なんだろうことは分かった。
そして、目の前に…私が欲しいと望んだリュックと似た物が現れた。
私のリュックではない。何せデザイン的に、ここはこうだったらいいなぁ…でも無いからこれでいいやと買った私物ではなく、私の欲しかった理想通りのデザインの物だったから。
物質創造力?
「うわー…」
少し川がカーブしていて河原があったので、リュックを持っていったんそこへ足を下した。
色々準備するのに、水の上は心情的にちょっと落ち着かなかったので、丁度いいといえば丁度よかった。
鞄と出現したリュックを置き、コートを脱ぐ。
私の使える力は神しゃまの力。
なんでもありな力。
それに基本RPGな世界なら、たぶん存在するだろう。
四次元ポケット的な魔法道具が。
私はリュックを覗いた。
………まっくらで、底が見えなかった。
うん、出来あがる時に考えついちゃったからだろう。
本当、何でもありだ。
石を放り込んで、ちょっと怖かったけど「石」と思いながら手を突っ込めば、掴み取り出せた。
鞄を突っ込み、とりあえずここで装備を整えることにする。
剣と魔法の世界にふさわしく。
神しゃまの力で作り出したのは、リュック、シャツ、ジーンズ、そしてブーツ……うん、ごめん欲しかったけど買えなかった趣味に走りました。
あまり、剣と魔法の世界にふさわしくない。現代的な物中心が、真っ先に作り出された。
まぁ、少数民族の住む島国出身者と偽る予定なので、あまり気にしないでおく。
それらを身につけ、制服一式はリュックに仕舞った。
ポケットの沢山ついたベストも作り出し、そこへどんな衝撃を受けても割れることのない試験管を、何本が差し込む。コルク栓をしてある物の中身のいくつかは、なんちゃってポーションである。
…あと紅茶(笑)だって、紅茶のギフトとかである物を基本に想像しちゃったんだもの。
薬入れのベストを着込むと、私の胸はつるぺたなので、これだけで一見細身な少年のような体格になる。
髪はそれなりに長いが、肩甲骨を隠すくらい。
さらさらの癖のないストレートは、自慢の持ち物であるが…それはあまり女性を感じさせるものではないらしい。
友人が言うには美少年剣士……目つきが少々キツイせいか、あまり女性らしい甘さを感じさせない顔立ちのせいもあるのだが。
まぁ、『美』少年は友人の欲目だろう。
私の容姿はごく普通のレベルだ。
夏に一度暑くて、ポニーテールにしたら「つんでれっぽいこと言ってっ」と頼まれた揚句に押し倒され、貞操が危うかった一件を思い出してしまい目元を押さえた。
あれは友人が可笑しいせいだ。
…ぶっ飛んだ友人を思い出したせいもあり、装備品は刀とする。
でも素人が扱えるわけがないので、刀には敵対相手への達人的技量(任意で峰打ちあり)効果を付属しておいた。
腰にベルトをつけ、刀を下げ……旅人っぽいフードつきのコートを作り出し羽織った。
リュックを持って、自身の格好を見て…とりあえず納得する。
うん、ギリギリコスプレっぽくない。