旅人、はじめます…近くの村まで。
「それじゃあ次に、この世界のことを簡単に説明しようか」
とりあえず状況を受け入れた私に、アーサーさんはこれまでまったく気にしていなかったことを切り出した。
「この大陸の名前はアルカイダ、この星の中で大きな大陸はあと二つあるけど、そこには名前はついていない…未開の地。あとは少数民族がいたりいなかったりする小さな島国も東にいくつか。ここは霊山で名前はない「人」の入れない土地。大抵、人の入れない土地は聖域だけど、ヒイラギちゃんは入れるから気をつけて」
「何を気をつけろと?」
「入れることを知られちゃうことを。生き神様扱い…されたい?」
私は首を振る。
こんなことになって、神しゃまとしか言いようのない存在を感じても、私は基本無神論者なのだ。
正月には神社にお参りにいって、クリスマスにはケーキを食べ、星を見ては神話にもとずく星座を思い出し、死んだら近所の寺の墓へと入るだろう。
そうゆう日本人なのだ。
「ま、気をつけることはそれと、何でも思いのままになるってことかな?」
「え」
「君に宿っているのは?」
「……神しゃま…」
「そ、望んで叶えられないことはほとんどないから。それこそ世界だって滅ぼしかけるくらいのことは出来る。神しゃま宿したよりしろが、この世界で一番強い存在だから…ヒイラギちゃんがこの世界を壊そうとしたら止められないし…でもそうしたら高確率で自分自身を壊すようなものだから、気をつけてね」
「……うわー…」
「で、この世界ですが、簡単に言うとオンラインゲームの世界です」
物凄く楽しそうなアーサーの表情に、私は何となく疲れを感じため息をついた。
うん。まぁ、それだけで何となく通じちゃうから便利よね。
「RPGな世界なわけね?」
「そう、剣と魔法、モンスターの世界。典型的な」
アーサーさんは本当に楽しそうに、笑った。
「ヒイラギちゃんも気に入ってくれると嬉しい。アーサーと俺で作った世界を。君が世界を好きになってくれればくれるだけ、世界は癒え成長するから」
そして神しゃまも成長しますと、凄く優しい声で言った彼は…何となく確かに神様っぽかった。
「他に何か聞きたいこと、ある?」
「いいえ、知りたいことにきりはないけど、そうゆうのは実際世界を見て体験して知るわ。ところでここの出口はどっち?」
アーサーさんの指す方角を見、水の流れてゆく先なのだなと思う。
たぶんこれは川に通じていて、川を辿れば村とかがあるんだろう。
私はその場で軽くジャンプしてみる。
何でも思い通りになると言われた通り、私は……大きく…洞窟の天井近くまで飛び上がって、ふんわりゆっくりと降りた。
確かめてから、もう一度ジャンプする。
今度は、アーサーさんの指し示した出口の方へ。
水から生えている水晶柱の尖った先端に、ふんわり降りて、つま先立ちする。
「それじゃあ、さようなら」
「いいや、ヒイラギちゃん、そこは『またね』にしようよ。ここで呼べば俺は応える設定になってるから」
ひらひらと手を振られ、私も振り返す。
そうゆう風に設定したアーサーさんに、感謝する。前例でも今の私と同じ人がいるって、心強い。
「そうね、じゃあ…」
ココが家ってわけじゃないけど。
「いってきます」
私の言葉にアーサーさんは目を丸くして…あははっと声を上げて笑って言った。
「いってらっしゃい」
……と。
こうして私は『たぶん召喚の間』から、旅立ったのだ。