魔道具作成と、アイリーフ
「魔道具を作りだすには、二種類の方法がある。魔術師が理論と法則、付与する魔力を生成して道具に付与して作り出す物。それから職人が、世界から付与される物とね」
「世界から付与?」
「滅多にないことだけどね、有名所では教会本部の女神像かね」
私は苦笑して手を上げた。
「すいません、この大陸に来て間もないので、有名所と言われても…」
「ああ、まあ、機会があったら見にお行き。祈るとランダムにだが怪我が癒える女神像があるのさ」
病は無理だけどねと、少し悲しそうにリニアさんは微笑んだ。
そして気を取り直したかのような笑顔に変わる。
「世界からの付与は魔道具と表現するより祝福物と呼ばれることが多いね。魔術師の作り出した物は、効果の方向性が決められる代わりに、付与した魔力が切れると効果も切れるけど、世界が付与した祝福物は効果の方向性はバラバラだし、いつでも作り出せる物じゃないけど、効果はほぼ永久だね。物が壊れでもしないかぎり」
「へぇ」
リニアの説明を受けた後日、いくつか細工を作りあげ…なんとなく仕組みは分かった。
アーサーさんが残した仕組みなのだろう。
細工の材料がこの世界の物であること、細工の出来、細工に込めた思い、それらに世界が反応するらしい。勿論ランダムなんだろうけど。
うん。作りあげた腕輪を見ながら思う。
緑の石を葉のような形に見えるよう組み込んだ銀の腕輪…リージにあげようと思っていたソレにも世界の力が宿った。
「あんた、銀細工とよっぽど相性がいいんだね」
「んー、でもその髪飾りは三つでワンセット扱いでしたから、実質二つ目ですよ?」
「生涯かけても作り出せない奴の方が多いんだよ」
腕輪をじっと見ていると、何となく効果が分かった。
「…沈静効果?」
「ん?分かるのかい」
「なんとなく…あれ?これってスキルですか?」
リニアさんは腕輪を受け取って見て、頷いた。
どうやらいつの間にか鑑定スキルらしきものを、得られたらしい。
レベルは低そうだけど。
うん、価値は分からないし、効果だって何となくという感じだし。更新するほどのものではなさそうだ。
「確かに沈静効果だね。恐慌状態に陥らない力だよ。精霊術師には丁度いいね、精霊術師は感情の暴走に力もつられちまうから」
返された腕輪をしまって、道具を片付ける。
「なら、今日はここまでにして、教会を覗いてリージに早速これあげに行きます」
「ああ、そうしてあげな」
教会に向かうと、その入り口の横で膝を抱えているアイリーフの姿があった。
…うん、面倒だから無視するけどね。
目はあったけど、何も言わずに扉に手をかけた私に、アイリーフは飛び上がるように立ちあがった。
「ちょっとっ、普通落ち込んでいる女の子がいたら、声をかけるもんでしょーっ」
怒鳴りはするが、本当に落ち込んでいるのか猫耳はねてしまっているし…眼差しにも私を嫌悪する色は薄かった。
「どうしてリージは、あんたみたいな他所者を信頼するのよ……」
俯いて声を震わせるアイリーフに、私は首を傾げた。
「さぁ?」
「さぁってなによそれーっ!」
「だってそれはリージにしか、分からないことだし?」
首を傾げてみせた私に、アイリーフは体も震わせて涙を浮かべた。
「なんで、リージは冒険者なんかになるのよ…っ、薬草採取なんてしても、もうお師匠様達は生き返りなんかしないのに…っ」
俯いて、ぼろぼろ涙を零す彼女に、私は首を傾げた。
「事情はよく分からないけど、リージが真剣に冒険者や薬草採取をやってるならやってるだけ、それらを軽視している君とは、絶対に組まないだろうね」
「なっ」
涙を零しながらも睨んでくる彼女の頭に、ぽんと手を置いて退かす。
「よく考えてみるんだね」
そうして私は教会へと足を進めた。
何か怒鳴ってくるかと思ったアイリーフからは、何もなく…それならそれでと振り返ることなく。