修行と、お茶会
リニアは鍛冶師だが、調金細工師でもあると知って、私は次の日から彼女に弟子入りすることになった。
リージも精霊術師になるかどうかは分からないが、力の制御を覚えるため教会の猫神父様の師事を受けることになり、出会ってから初めての別行動だ。
まあ、慌てて稼がなくてもいいくらい資金はあるのでいいだろう。
うん、この世界に来てから…妙に金運には恵まれてるので、材料費は山ほどある。
アクセサリー製作は私の趣味だ。
留め金や細かな鎖を作るのは大変だったが、リニアさんのアドバイスも受けて何とか製作出来た。
「器用ねぇ…こんな細かい鎖、初めて」
「そうですか?」
「そうよ、首飾りなんかは大抵、革ひもに羽根とか石とか飾るタイプくらいよ。庶民のアクセサリーね」
「ああ、そうゆうのも好きです」
指輪にネックレス、イヤーカフを同時進行で製作して…合間に休憩中のリニアとお茶をする。
そんな生活が暫く続いた。
リージの力の制御はなかなか難しいようで、帰ってご飯を食べてお風呂に入って寝るという作業を、作業としか言いようのない様子でこなすので、どんな修行をしているのか詳しくは知らない。
でも、私が家事全般を引き受けても、お礼は言っても恐縮はしなくなった所はいいことだろう。
ちなみにリージの長く伸びた髪は元の髪形へと整えられた。
うん、ベッドから起き上がる時、腕の下にあって…ちょっと首を痛めかけたらしい。
それにあの長さだと、完璧に神秘的な美少女にしか見えない自分が嫌だったようだ。
アイリーフ達が、またリージに絡んだかどうかは聞いてないが…リニアさんから何かあったらしいことは聞いた。
なんか下僕の方二人は、怯えて使い物にならなくなってるらしい。
「あの子達、私が苦手だから。レリーフに引っ張られてこなければ、ここには近づかないわよ。以前あの子達が冒険者になるための装備を揃えようと来た時、追い返したからねぇ…」
「どうしてですか?」
「私は『子供』に持たせるような刃物は作ってないからね」
リニアさんは何か思い出すかのような表情で、ため息をついて言った。
「勇者ごっこするような子供に真剣持たせないでしょ?昔は…リージのお母さんの師事を受けてた頃のアイリーフなら、分かってたみたいだったけど……今はダメね。レリーフもビシッと叱ればいいのに、あの子には甘いというか、弱いんだから」
怒るリニアさんに、ついくすくすと笑ってしまった。
「仲いいんですね」
「そりゃ、」
リニアさんとレリーフとミアリスさんは、なんと同い年で幼馴染の仲という話だった。
噂をすれば影…と、言うか
次の日、リニアさんの家には、休日のミアリスさんとレリーフが遊びに来て、私と遭遇することとなった。
「まさかっ、本当に噂どおりにリニアちゃんに彼氏が出来てたなんてっ」
手が離せないリニアさんの代わりに、戸を開けて顔を合わせたとたんのミアリスさんのセリフがコレだった。
大げさに驚いて、よろりとよろけてさえ見せる芸の細かさを、当然私とレリーフはスルーした。
「久しぶり、ヒイラギ」
「うん、久しぶり」
まだリージとの会話を引きずっているのか、少々ぎこちない笑みを浮かべる彼女に笑みを返した。
「この間はごめん」
「それはリージに言ってあげなよ」
俯く彼女の肩をそっと叩いて、家の中に入るよう促す。
「あれ?なに?この空気…まさかっ、レリーフまでヒイラギさんと?」
私はミアリスさんに、生ぬるい視線を向け、そっと彼女の前でドアを閉めようとした。
「うわぁあんっ、待ってぇっ、冗談だからぁぁっ」
お茶の支度が終わる頃、丁度リニアさんは一段落つけて作業場からやってきた。
レリーフを見て、ふんっと鼻を鳴らす。
「まだ落ち込んでるんかい、レリーフ」
「リニア…」
「まったく、敵に対してはどこまでも不敵になれるのに、相変わらず身内には弱々しいねぇ」
「だって、アイリーフがぁっ」
耳をへにょりと伏せさせて、レリーフはしくしく泣き出した。
うん、初めて会った頃の姉御っぽい風格は、微塵も残っていない。
「いい加減、甘やかすのはやめて、叱り飛ばすことも必要だよ」
「そんなことしたら、ただでさえ嫌われてるのにっ、もっと嫌われちゃうぅぅうっ」
「そんなことないよ、レリーフちゃんっ、アイリーフちゃんはちゃんとお姉ちゃんのこと大好きだよっ」
あわあわと焦ってミアリスさんが声をかけるが、レリーフは顔を手で覆ったままふるふると頭を振った。
「だって、お姉ちゃんは余計なことしないでって、リージくんに嫌われたの私のせいだってっ」
「あん?そんなの八つ当たりの言いがかりじゃないか、」
それぞれの前にお茶を置いて、私は首を傾げた。
「席、外しましょうか?」
「いいよ、この際ヒイラギさんも聞いといておくれよ」