見事な、スルースキル(笑)
森の豊かさのために置いていても、どうせ他の冒険者が取るだけだからと、私は聖石をリュックに詰めた。
「もうこれの報酬は山分けってことで、いい?」
聞いてはいるが決定事項である。
そんな私の様子が分かったのだろう、リージも抵抗なく頷いてくれた。
「ラッキーだったねぇ」
「本当に」
お弁当のサンドイッチを食べて、少しのんびりしてから村へ帰る。
「そういえば、ここに来てからまだ魔物と戦ってないなぁ…」
「元々あまりいませんしね」
「角のある兔は魔物だよね?」
遠くに見える姿を指さして聞く。
「ええ、島では見ませんでしたか?この辺の一角兔は、あまり凶暴じゃないんですよね。物凄く近くで遭遇しなければ、襲ってはきませんね」
「なるほど」
「この辺で見かける魔物はスライムと一角兔、魔犬ですね。注意が必要なのは魔犬くらいです」
「スライム…やっぱいるんだ……」
私の視線の先には、ぐにょぐにょとした半透明の濁ったヘドロのような固まりがあった。
うん。これが噂をすれば影ってやつだね?
リージはナイフを構え、私も刀に手を添えた。
「スライム?」
「はい」
目も口もない。クラゲのようなものだったが、それは細かく振動するかのように震え、飛び跳ねた。
空中で、薪割りの要領で切った……………
はずだった。
「うぉっ」
慌てて飛びかかってきた、それを避ける。
「ヒイラギさんっ」
地面に落ちたソレにリージがナイフを突き立てると、それはジュウッと音を立てて溶け消えた。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
刀を一振りして鞘に戻し、苦笑を落とす。
「ごめん、うっかりしてた」
「何があったんですか?」
心配そうなリージに、スライムを切れなかった訳を話そうとして…嘲笑に遮られた。
声の方を見れば、木の影から三人の男女が出てきた。
うん。アイリーフと愛の下僕達である。
アイリーフの杖は短い物になっていたが、ひらひらゴスロリ服も健在である。
……もしかして、ずっと隠れて待ち伏せしていたのだろうか?
「暇なの?」
私の心を読んだかのようなリージの呟きは、笑うのに忙しい三人には届かなかった。
「スライムも倒せない冒険者なんて、初めて見たわっ」
「あはははは、あんなにカッコつけて、情けない」
「弱い者同士で傷の舐め合いか、リージ」
ああ、喧嘩を売りにきたのかと、とても分かりやすい挑発だった。
「さて、帰ろうかリージ」
「はい、ヒイラギさん」
にこっと笑い合い、さくさくと帰り道を進む私達に、三人は慌てた様子で追いかけてくる。
ぎゃーぎゃー言っているが、華麗にスルーする私達に、その早歩きのスピードにも追いつけない三人。
少しムッとしていたリージも、三人を引き離して村の入り口が見える頃になると、少し息を切らしながらも楽しそうだった。
うん、私もちょっと楽しかったですよ。
私の楽しい気分につられたのか、神しゃまもきゃらきゃらはしゃいでいる感じがしたのだった。