そういえば、二日目終了。
「ごめんなさい…何か変なことに巻き込んでしまって…」
しゅんとした様子のリージの頭を私は撫でた。
「辛かった、ね」
リージは決して、アイリーフを心から嫌っているわけでは無かったんだろう。
「お母さんの形見、折らしちゃったね」
そう、本当に嫌っているなら、これまでそんな杖を使わせているはずがない。
「…かぁさんが、力を揮う者は感情だけで力を揮ってはいけないって、力を揮う責任を持たなくてはいけないって、一番大切なことだって……言ってたのに」
悔しそうに涙を滲ませるリージに、その言葉に、胸が震えた。
「私も気をつける」
「え?」
「凄く、素敵な人だったんだね。リージのお母さん」
私の中の神しゃまの力
なんでも有りな力だけれど、力に溺れないように。
「リージのお母さんの言葉、胸に刻んだ」
そっと胸元に手を置いて、微笑んだ。
神しゃまを利用するだけの存在には、なりたくないしね。
リージはしばらくボーと私を見上げていて、それから心底嬉しそうに涙ぐみながら
「ありがとう」
と、笑顔になった。
ささやかながら、夕飯は私が作った。
リージは野菜の皮を剥いたり切ったりは、それなりに出来るのだが、味付けが出来ないらしい。
両親が死んで、しばらくしてから自炊も頑張ろうとしたのだが…
「シチューを煮込んでたら、なんだか変な色になって…溢れ出てきて、鍋が…溶けました」
漫画かと突っ込みたいが、なにせアーサーさんの創った世界である…
「………うん、了解」
それから台所ではお茶を入れるくらいにしか、使用していなかったそうだ。
塩以外の調味料は軒並み死滅していたので、野菜炒めと塩味の鳥肉スープである。
そしてパン屋さんで買ってきたパン。
うん、私も料理は簡単なものしか作れない。
しかもここの台所の火って、かまどだし……都会では、コンロのような魔道具もあるらしいが。
だから『火のこ』で炎操って何とかできたけど、普通の火だったら火加減調節出来ずに焦がしていた自信がある。
裁縫系の方が得意。
けど、リージは「美味しいです」と喜んで食べてくれた。
…うん、ちょっとキューンときた。なんだか、アイリーフとのいざこざ後から、リージの表情が更に柔らかくなったというか…
大したものではないのに、そう喜ばれると私も嬉しくなってしまう。
うん。リージみたいな美少年に、懐かれて、「美味しい」なんていってもらえると、次はもっと頑張ろうとも思ってしまうよ。
「今日はお風呂用意しますね」
「え」
思わず声が弾んだ。
この世界に来て、初めてのお風呂である。正直嬉しい。
「まず薪割りしないとなんですけどね」
「あ、私がやるよ」
「いえ、でも」
「修行にもなるから、やらせて?」
裏庭に案内され、積み上がった薪の一つを手にする。
うん、せっかくスキルにサムライ進化があるのだ。
鍛えないわけにはいかない。
薪を空中に放りあげて、素早く腰の刀に触れる。
最初の一、二度は刀に触れるより、薪が地面に落ちる方が早かったが何とか調節してみた。
二つ切りが四つ切になり、六つ切りまでは出来るようになった。
目指すは八つ切りだが、気づいたらほとんどの薪を切り捨て終えてた。
「…ヒイラギさん、凄すぎです」
「あはは、ごめん…」
ちょっと楽しかったので、珍しく夢中になってました。
その後は二人で井戸から水を運んで、リージは家庭菜園の中から数束草を刈って、それを煮詰めた。
「それ、何?」
「あ、初めて見ますか?体や髪を洗う薬湯です。口にすると不味いんですが、髪とか体に塗って擦ると綺麗になりますよ」
「へぇ、石鹸みたいなものかな?」
「ええ、でもかぁさんは、これの方が髪がごわごわにならなくていいって言ってたし……その、ヒイラギさんも僕と髪質似てそうだから、丁度いいかなと思って」
確かに黒髪ストレートはお揃いである。
一人ずつ火の番をして、お風呂をいただいた。
薬湯、泡立ちといい、香りといい最高でした。