転職、完了。
「なに?ミリアスさん…」
絶叫したミアリスさんに、リージが顔を顰めて言った。
うん。初めて見る表情に、口調だ。
そこはかとなく冷たい響きの声と、冷たい眼差し。
リージのオリエンタルな美貌を引き立てて、いつもより大人っぽく見える。
心臓には優しくないが。
うん、ちょっと迫力あるわ…馴れ馴れしさを拒絶する雰囲気だ。
そんなリージを気にした様子もなく、ミアリスさんは大きな身振り手振りをつけて、カウンターから身を乗り出して言った。
「だって、リージくんっ!これまでアイリーフちゃんにいくら誘われても、ずーとソロだったのにっ」
「それが何?」
リージの眉間に皺が寄って、ますます不機嫌そうになる。
「僕は冒険者ごっこがしたくて冒険者になったんじゃない。生活のために冒険者になったんだ。半分遊びのグループに関わってなんていられないよ」
「でも、アイリーフちゃんはっ」
「それに、あんなのが勧誘とは僕は認めないね」
「うぐっ」
きつい眼差しと声に、ミアリスさんは声を詰まらせる。
なんか知らない名前も出てきたし、リージの知らない表情にも驚いて、話に入れなかったけど…
うん、気にかかることが一つ。
「ごめんリージ、私も生活のためって言うより半分観光目的…」
「いえっ、ヒイラギさんには助けてもらったし、だからってわけじゃないけど少しでも助けになれれば」
私の言葉にリージは即座に首を振って、声色も表情も柔らかいものに戻して言った。
「その…ヒイラギさんは凄いスキルの持ち主だし、すぐに僕の助けなんて必要なくなると思うけど…」
「そんなことない。助かるよ?」
「じゃあ、パーティ組んでもらえますか?」
「うん。こちらこそ、よろしくね」
そう返すと、履歴表示をしていた光りが一瞬強く輝き…一番下に文字が増えていた。
パーティ契約
相手 リージ
パーティ名・無名
リージの方にも…私の名前が契約者として刻まれていた。
「パーティ名?」
「通り名とかです。名のって、世間に定着すると登録されるから」
「あ、その場合もこちらで銅貨一枚で確認、登録となります」
少し複雑そうな表情で、でも姿勢を正してミアリスさんは言った。
「カードは必要とする時以外は消えます。カードが必要な時は「ギルドカード」と呼びかければ現れますから。必要としない時に言葉を口にしても、現れることはありませんから」
さっそく依頼の紙が貼られたボードの前で、色々見学してみる。
「この村ではそれほど危険なクエストは無いので、採取系とお使い系がほとんどです」
「うん。あ、聖石 百グラム・銀貨?」
一枚だけ桁の違う依頼料の紙に目を止める。
「そう言えばリージのスキルの中に、聖石採取ってあったね」
「ええ、聖域近くの土地でまれに見つかる石で、教会関係の聖具を作ったり魔法使いや聖騎士の武器や防具作成に必要らしいです。僕はスキル登録できるくらい見つけるので」
リージは袋の中から石を取りだした。
聖域でいたる所に生えていた水晶柱だった。
大きさは桁違いに小さいが。
小指…くらいの大きさだ。
「これで十グラムくらいですね…あの依頼は聖域近くの土地に、常時貼りだされてますよ」
「へぇ」
「基本クエスト受け付けは自己責任で、この依頼書の下に書かれているBっていうのがこの村では一番危険なクエストです。大抵の依頼はDレベルですね、何も書かれていないのはFレベルで、村の中でのお手伝い関係になります」
「ふーん、冒険者のレベルがFでも、出来るならBとかも受け付けられるってこと?」
「ええ…それが保障出来るスキルなんかを持っていれば…ってことで、ヒイラギさんなら大丈夫ですよ」
「うん。でもしばらくはリージに色々教わりたいな、薬草知識、とか?」
「はいっ、勿論」
はにかむような笑顔を浮かべたリージに、ほのぼのとした気分を味わう。
うーん…ミアリスさん、リージに嫌われてるのかしら?
最初寝てたのを咎めるように呼びかけた時は、呆れた感じで…そう冷たい感じはなかったけど…
そんなことを考えていると、リージの表情が固く強張った。
視線は…私の後ろ?
と、振り返ると…少年少女、三人が険しい表情で立っていた。