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ロックマンゼロ

「ぎにゃああああ」


 ゴールデンウィークに入ろうという時期、天気予報に騙されて厚着したら暑くて汗だくになってしまった少年が、学校帰りのいつもの時間、いつもの場所にある部室の玄関を開くと同時、いつもの悲鳴が聞こえてきた。


 ――あぁ、また負けてるなあ。


 などと思いながら津雲千歳は入室する。靴を脱いで揃え、スリッパに履き替えて洗面所へ手を洗いに。それからやっと悲鳴の上がった部屋へ入るのである。

 部屋の中は何ら変哲のない八畳間、壁は棚で囲われ窓には厚めのカーテン。真ん中にソファとテーブル、そして向かいに55インチのTVとゲーム機。画面にはゲームオーバー後に現れる「CONTINUE」の文字が映し出されている。

 ソファを見ると悲鳴の主がグッタリとしていた。赤茶色の髪がソファの背で乱れている。


「こんにちは由良さん」

「あ、千歳君。こんにちは、今日は遅かったですね」


 静かでそれでいて凛とした声が返ってきた。とてもこの声からあんな悲鳴がでるとは思えない。振り返った彼女の顔は端正で垂れ目寄りな瞳は一種の色気がある。

 由良詩織という名の少女は町を歩けば一度は視線を集めるくらいの美少女であり、こうして交流ができてしばらく経っても尚、千歳は彼女に見惚れる事がある。

 そんな感情は胸の奥にある箪笥に閉まって、ビニールの袋を持ち上げて見せた。


「スーパーに寄ってきたんだ、ジュース買ってきたけど飲む?」

「炭酸水あります?」

「レモンと普通のやつあるよ」

「レモンで!」


 はいとレモン炭酸水を渡した、ペットボトルに結露した水滴が零れて由良の制服を少し濡らすが、彼女は意に介した様子が無い。残りのジュースは台所にある冷蔵庫に入れておく。


「今日は何してんの?」


 コートとブレザーをハンガーに掛けてからの隣に座る。ボスッと柔らかな反動がお尻から返ってきた。

 隣からほのかに甘いいい匂いがする。フレグランスな上品な香りだ。


「今日はこちらですわ!」


 デデーンと自分で効果音を出しながらコントローラーを操作してタイトル画面へと戻った。


「おおー、ロックマンゼロかぁ」


 真っ黒な背景に青い「ロックマン」の文字、オレンジ色の「Z」は特に目立つ、Zに被さるようにして炎のような色合いの「ゼロ」がカッコ良さを引き出していた。


「やはり由良家の令嬢たるもの、ロックマンはやっておくべきかと思いまして!」

「令嬢関係ないと思うけどね。しかしなんでゼロなの? 大体は無印かXだと思うんだけど」

「ビジュアルがカッコ良いからですわ!」

「わかる! わかりみが強い!由良さんの言うとおりロックマンゼロのビジュアルはそれまでのロックマンシリーズよりもスタイリッシュに描かれているよね!

 特に主人公のゼロ、ゼロは元々Xのキャラでありそちらのデザインもまたクールでありながらワイルドなデザインで……。


 〜中略〜


 このデザインの違いは好みの問題でもあるが、どちらも素晴らしいデザインで甲乙つけがた……いやつけてはならぬ!」

「長すぎて途中から聞いてませんでしたわ」


 なんてこったい。

 

 


「というわけで意気揚々と始めたわけですが……2面で沼りましたわぁ!」

「2面……アステファルコンか。あれは僕も心折れそうになったなあ」


 ロックマンゼロはシリーズでも特に難しいとされる部類であり、その一因が初心者殺しのアステファルコン、2面のボスなのだがこれがまあ強いのである。

 体力は少ないのだが、手数が多く初見では読み切れない。またこのボス戦自体が時間制限付きで焦る、焦るのだ。

 まだ操作に慣れていない初心者の思考を焦りで低下させるという鬼畜、あまりにも鬼畜。


「うぎゃぁ、また負けましたわぁ」


 とかなんとか考えてる間に詩織は再びアステファルコンに挑み、そして四散した。何とも可愛い悲鳴だ。



 どうやらコレクションを購入したようで、アシストセーブありのモードで遊んでいるらしい。

 先程の彼女のプレイを見てふと気が付いた。


「ねぇ、バスターとセイバーのレベルって上げてないの?」

「え? レベルあるんですの?」


 初心者殺しその2、チュートリアルでバスターとセイバーのレベル上げを教えてくれない。

 ロックマンゼロは遠距離攻撃のバスターと、近距離攻撃のセイバーで戦うのだが、これら二つは使い込めば使い込む程レベルが上がって強化される。


「そこそこ、そこのうにょーんと伸びてる奴が無限に生えるから」

「これですわね」


 スコアを気にするならミッション前にチュートリアルステージに潜ってレベリングするが、詩織は気にしないそうなのでステージ後半に出てくる敵をひたすら倒し続けた。


「ついにチャージショットとチャージ斬りを手に入れましたわ!!」

「やったね! じゃあ早速」

「ええ! リベンジですわ!」




「負けましたわあ!!」


 まあ勝てるどうかはまた別の話だ。

 その後何度かリベンジしてようやくアステファルコンを撃破したのだった。


「ところでサイバーエルフは使わないの?」


 ステージの至る所にいるサイバーエルフという妖精みたいなのがおり、そのサイバーエルフを集め、敵が落とすクリスタルを与えることで成長する、成長したサイバーエルフを使用する事でゼロが強化されたりステージが変化したりするので、難易度調整に一役買うシステムだ。


「つ、使いませんわ!」


 どうやらこのお嬢様はサイバーエルフを使わない強気スタイルらしい。


「その心は?」

「使ったら死んじゃうじゃありませんか! 可哀想で使えませんわ!」


 そう、サイバーエルフは生きている。そしてゼロを強化する代償として死んでしまうのである。あろう事かサイバーエルフはその事をサラッと言うので困る。

 なのでサイバーエルフを使わずプレイする人も結構いるのだとか。

 ちなみに千歳もその一人である。


「まあ、わかる」

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