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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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嫉妬

 ──何でよりによってこの二人が一緒にいるのか、まったく意味わかんない、最悪だ。



 ◇


 原宿と言えば竹下通り広場スクエア


 そこはまるで「かわいい」という文化に溢れた異世界だ。


 ひとたび原宿駅を出れば、流行のファッションと甘いスイーツの香りが漂う……って、なんか無性にクレープが食べたくなってきた。


 僕はワンピースの襟元を整え、パステルカラーのベレー帽をかぶり直すと、いつものガニ股に気をつけながら、軽いステップでおしゃれなクレープ屋に飛び込んだ。


 クレープって、いかにも原宿女子って感じだしね。


 それでショーケースの前でメニューを見ながら。


(うーん、結構高いな、これなら牛丼を食ったほうが……いやいや、違うだろ)


 頭をぶんぶん振り、男らしい思考を打ち払う。


 そして、背後の「女子二人」を見て見ぬふり……じゃなくて、見て──


(にしても、なんであいつら、僕にまとわりつくんだ? 今もしれっと店に入ってきたし……未だに二人の組み合わせが──うん、謎すぎる)


 原宿駅の広場で運悪くエンカウントしてしまった東雲綾乃しののめあやのと小倉もも。


 出会ったら最期、ソロプレイヤーにとってゲームオーバー必至の最悪な状況に、僕、神坂登輝もとい私、橙華とうかは、プールの件など過去のタブーには一切触れず、ひたすらやり過ごす(逃走)道を選んだ。


 ……けど、ちょうどいい機会かもしれない、と思い留まった。


 あの件以来、二人とはずっとギクシャクしたままだし、特に東雲とは、口もきかない、いわゆる絶交、状態にある、らしい。


 だから、ここはお詫びと仲直りを兼ねて。


「ええっと……こ、ここは私がどんどんおごっちゃうから、何でも注文して、ね」

「そう? じゃあお言葉に甘えて。私はレインボークレープをいただこうかしら?」

「て、ではでは、わたわたわたし、も、ももも綾乃センパイと同じものでお願いします! 綾乃さんとお揃い……ぽわあ〜」

「……あ、はは……いい、よ」


(まてまてまてまてまて、レインボーってなにそれ!?)




 それから、ああだこうだと話しながら、三人でクレープ片手に食べ歩いた。


 僕のイチゴクレープ(税抜450円)はともかく、東雲とももちゃんのカラフルでポップなクレープ(レインボークレープ税抜1,800円)は、正直かなり食べにくそう。これもSNS映えに振り切っている弊害(財布にも)か。


 なんて思っていたら案の定、笑顔のももちゃんが、口元をクリームだらけにしている東雲を巻き込んで、楽しそうに自撮りをしていた。


 なんか知らんが、いつの間にか二人が仲良くなったみたいで何より。というか、僕とは撮らないの? え、必要ない? 


 ああそうですか……。


 それで小倉ももさん、いつもの塩対応はいずこに?


 


 その後も三人で、買い物をしたり。


 カフェに寄ったりと──、もう、いろいろ嫌なことを忘れて、いっそ楽しくなってきた、


 そんな時だった。


「ねえ、橙華さん」


 ファンシーショップの店先で、ブサカワな謎生物のぬいぐるみを指先でしきりにツンツンしていた東雲が、僕に目もくれず、唐突に口を開く。


「──本当の貴方は、どっちかしら?」

「え?」


 さらに東雲は質問を続ける。


「男性? それとも女性?」


 質問の意図が意味不明。なぜ今さらそんなわかりきったことを訊くんだ。


「……いや、普通に、男、だけど──」


 ふいに東雲が振り返る。その切れ長の瞳は、ひどく冷ややかだった。

 

「そう。だったらはっきり言うわ、橙華さんには佐伯比呂は演じきれない、《《彼女》》の事は理解できない。見せかけだけの貴方には、到底無理よ」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


 いつもの毒舌とは、乗っている温度がまるで違う。その証拠に、東雲の隣にぴったりと貼り付いていたももちゃんが、弾かれたようにビクリと後ずさりする。


 僕は。


 戸惑い、怒り。


 そして──どうしようもないほどの嫉妬。


「……な、なんでだよ、お前に、僕の何がわかるっていうんだ」


「そうね、私には、貴方の苦労なんてわからないわ」


「だったら、なぜ……」

「私は《《女》》だから。でもね……」


 東雲は一歩踏み出し、僕の耳元で、冷たく、それでも澄んだ声で囁く。


「──貴方が演じる佐伯比呂さえきひろは……違うわ。その意味すら見失っている貴方に、彼女の声は出せない」


「言ってる意味が、わからな──」


「後は自分で考えなさい、さあ、小倉さん行くわよ」

「え……っ、あ、ちょ、ちょっと待ってください! 橙華さん……」


 東雲は、困惑するももちゃんの手を強引に引くと、一度も振り返ることなく人混みの向こうへと消えていった。


 残されたのは、僕一人。


 ふと、鼻をつく。


 さっきまであんなに甘く誘惑的だったクレープの匂いが、今は吐き気がするほど生臭く、安っぽく感じた──。

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