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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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ゔぁるれこ!

『──始まりましたー! 新春アニメ『ヴァルキリーレコード』、公式配信番組『ゔぁるれこ!』です! パーソナリティは、八城雛月やしろひなづき役の橙華とうかと……』


『……。水口穂香みなぐちほのか役、東雲綾乃しののめあやのよ』


『あ、綾ちゃん、もうちょっとテンション上げようよ……え、えー、こ、この番組はですね、ヒロイン役を演じる私たちが、ゆるいトークを交えながら、作品の魅力を熱く語っていく番組です。最後までよろしくね!』


『よろしく』


『で、では早速、放送を待ちきれない皆さんのために、冒頭映像をチラ見せしちゃいます! 綾ちゃん、景気よくタイトルコールお願いね!』


『は? そんなの聞いてないわ。そんなの貴方がやりなさい』


『で、ではでは、VTRスタート!』



 師走の冷え込みが嘘のような熱気と困惑が入り混じる、とあるビルの一室。


 僕、神坂登輝もとい橙華は、突貫工事感が隠しきれていないメルヘンセットに囲まれ、全力で営業スマイルを振りまいていた。


 そして、カメラが切り替わると同時に、ガクンと頭を項垂れる。


 そんな僕の隣では、綾ちゃんこと東雲綾乃が優雅に足を組み、ブサカワのぬいぐるみと一緒にふんぞり返っていた。カチカチと呑気にジュースを啜る音が、なんかムカつく。


「……おい、東雲。これ生配信だよ? 進行は僕がなんとかするから、せめて笑顔くらい作れって。見ている人たちに失礼だろが」


 気を取り直し、台本とは名ばかりのペラペラな冊子をチェックしながら、映像が流れている合間を縫って、せめてもの注意を促す。


「あら、意外。安っぽいフリルを纏っている貴方の口から、そんな立派な台詞が出るなんて」

「うっ……」

「えー、二人とも準備はいい? そろそろ再開するから」

「あ、はい! 東雲も早くスタンバって──」



『パチパチパチ──! 映像、すっごく綺麗だったね。内容も面白そうだし、 ねぇ、綾ちゃん!』


『まあ、悪くないわね。手垢がついたテンプレ内容はともかく、私が出演している以上、来期の覇権を狙えるポテンシャルは十分にあると言えるわ』


『……う、うん! 王道で安心感のあるストーリーだよね! 女の子もみんな可愛いし、さ、それではここで登場人物の相関図を紹介しちゃいます! は、はい、注目〜』




 どっと、疲れが出た。


 永遠とも感じられたが、実質三十分ほどの配信を終えた瞬間、僕はバタンとその場で突っ伏した。


 黒髪ウィッグが無駄に艶々で毒々しい。カラフルなテーブルに広がる様は、ジャパニーズホラー真っ青である。対照的に、何食わぬ顔でリップを塗り直す東雲。見ているだけで無性に腹が立つ。なぜ自分だけが、こうもメンタリティを削らねばならない。


「いやも〜、二人とも最高でした! 番組は大成功です」


 そんな耳を疑う声に顔を上げると、企画者の鶴岡さんが満面の笑みで額の汗を拭っていた。


「え、何で……? 番宣としては、かなりグダグダだった気がしますけど……」

「いやいやとんでもない! 東雲さんの毒舌トークに翻弄ほんろうされる新人声優の橙華とうかさん。この構図、それはもうネットでの盛り上がりが凄まじいです」


 そうなの? というか、一応これでも新人ではないんだが……。まあいい。経歴的には新人みたいなもんだし。


「あ、あの……東雲はともかく、僕の……その、女装バレの件は……」

「そのへんは安心を! ぜひこちらをご覧ください」


 手渡されたのは、配信中のリアルタイムコメントの一覧だった。


 大半は東雲に対するマゾ的発言──。いや、内容をかいつまんで説明すると、東雲の『S』っぷりに熱狂する『М』の住民からのアプローチが白熱。……んまあ、それは一旦置いとくとして、新作アニメへの期待に混じり、僕、橙華に対する応援も数多く並んでいた。


 内容は多少アレだが、少なくとも「男」だと疑う声はない。


 うーん、ここは喜ぶべきだろうか? 極めて複雑な心境だ。


「それで、次の収録なんですが──」

「へ? 次? 今回だけじゃ……」

「当然ね。次は私、橙華とうかさんと一緒にキャラのコスプレをしてみたいわ」

「東雲、お前はちょっと黙ってろ!」

「お前? 先輩に向かって、いい度胸ね?」

「……東雲センパイ、すみませんでした」



 次の配信は、せめて、せめて東雲以外でお願いします──。

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