《続》小倉ももは、決して許さない。⑤
「──ほら〜、みんな〜、こっちこっち!」
ええっと……うん、一度状況を整理しよう。
騒がしい陽キャども──いや、遊泳客でごった返す某人気テーマパーク。その期間限定大型プールサイドで、見知った麗しき女性がブンブンとこちらに向かって手招きをしている。
商売道具でもある艷やかなウィスパーボイスを惜しげもなく張り上げ、太陽の下にカラフルなマーメイドビキニをさらけ出す夏の女神は──紛れもなく、あの唯川雫その人だ。
彼女は知る人ぞ知る大人気声優であり、多種多様にわたる声の演技もさるところ、歌も踊りもパーフェクト超人で──もはやアイドル声優界のカリスマといっても過言ではない存在。
ていうか、やっぱ大きい。
夏の日差しで弾ける谷間の水滴が、ぷるんぷるんと揺れ……、
(──じゃなくて! ななな、なんで唯川さんがここに!? 絶対に話がややこしくなるって!)
「し、東雲……」
僕は思わず、隣で威圧的に腕を組む花柄ビキニのちっパイ──いや、東雲パイセンに目配せ。
実はこの東雲、唯川雫の実の《《妹》》だったりする。これは世間はもとい、声優業界でもあまり知られていない情報だ。
僕も本人から聞いたわけじゃない。とある人物から「本当は姉妹を売りしたかったんですが、東雲さんに拒否されちゃいました。はっはっはっ」と、世間話ついでにしれっと聞かされた。個人情報とは一体?
(……でも、唯川さんを呼んだのは、多分しのの)
ギロリ。
ひっ! 実姉を見る視線が完全にアウト。人を人とは思わないサイコパスなあの娘……ってことは、これ(唯川雫投入)は東雲の差し金、じゃないのか?
(……実の姉妹とはいえ、根深い確執があるみたいだし……。となると一体、誰が──)
と、その疑問は、すぐに氷解した。
「あっ、雫さん、お疲れです! 本当に来てくれたんですね、場所取り感謝っす!」
「翔くんこそ、誘ってくれてありがとう。でも私、お邪魔じゃないかな? 二人の尊い絡み♡ う、ううん、なんでもないよ! とにかく今日はみんなで楽しみましょう〜」
「ウィ、了解っす!」
「翔くん」「雫さん」と呼び合う鶏頭の2.5次元俳優と腐っているトップ女性アイドル声優。
宇佐美ぃい、お前かぁあああー!
てか、お前らどこで繋がってんだよ……。
(あのチャラ男(宇佐美)、何考えてやがる……もしや対東雲用の最終兵器として呼んだのか? だとしても完全に負のスパイラルだろ。……まあ、人のことは言えんが──)
いつの間にか、「触れるな危険」状態の東雲がドス黒い闇のオーラを纏い、真っ向から焼きそばを両手一杯に抱えた唯川さんと対峙している。僕は慌ててプリーツスカート(水着)をはためかし、駆け寄ろうとするが、一足遅かった。
「姉さん、どうしてここに?」
「あ、綾ちゃん〜! 今日、私も一日オフだから来ちゃった。……あれ、もしかして迷惑だったかな?」
「え、ええ。別に迷惑では……ないわ、少し驚いただけ、よ」
──ってあれ? 東雲の奴、案外冷静……いや、妙に慎ましく、明後日の方向を見ながらモジモジと指をこねくり回したりなんかして、いつもの悪役令嬢ムーブに対し、明らかにキャラが崩壊している。逆に怖い。
「ぁ、あのっ!」
そんなトライアングラーの中、ある意味、今回のキーパーソンともいえるJK(女子高生)アイドル声優こと、小倉もも(存在を忘れてた)が、異様な空気感を漂わせる東雲と唯川さんの間に割って入り、僕の存在は完全に無視で、グイグイと二人の元に詰め寄る。
さすがはKY……じゃなかった現役のJK、まさに怖いもの知らず。そんな勇気、自分には微塵もない。
ももちゃんは、あざとかわいいワンピース水着から溢れんばかりのボリュームを東雲の二の腕に押し付けて参戦。しかし、その清々しいほどの百合行為に、当の東雲は無反応というか、もはやフリーズ状態。さっきから全然らしくない。炎上レベルのキャラ崩壊も未だに継続中だし、一体どうしたんだ?
って、今はそれどころじゃない、JKアイドル声優の様子が……。
「あら、あなたは確か……」
「ふ、ふう〜、は、はい! 小倉ももですっ。お、お久しぶりです、唯川センパイ……ふう〜ふう〜! あのですね、つかぬことを伺いますが……ふう〜、ふう〜、ふう〜! ●▲■そ、その、お二人はどういったご関係でしょうか、見た感じ、ただの仕事仲間では……ふう〜、ふう〜、ふう〜、ふ、ふふ、ふへへ、ほわほわほわ●▲■✖✖✖▲■✖──ぽわ〜ん!」
あ、ももちゃんが爆散した──




