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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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覚悟は良くて?

 ピンポーン、ドンドンドンドンドンドン──


 週明けの午前中。


「はいはーいっ!」


 今日配送予定の荷物が届いたと思い、僕、神坂登輝は、慌ててアパートの玄関に駆け寄った。


 というのも、先日待ちに待ったギャラ(出演料)が振り込まれたので、念願だった『妹とお呼びにならないでお兄様』の再販フィギュア(税込21,780円)を自分へのご褒美と称してネットでポチッたのだ。


 ふう、良かった。出掛ける前で。


(……ふ、ふふふ。こ、これで如月有珠きさらぎありす様(CV八木沼伊織)の鉄壁ガードだったロングスカートの中身が拝め──)


 と、鼻息を荒く……いや、至ってクールな顔で玄関のドアを開けたら。


「ふーん、水玉パンツ。絶妙にダサいわね」


 そこには、無残にも箱から引きずり出された1/7スケールの有珠様を逆さ吊りにし、下半身をジッと眺める痴女──もとい、やたら気合の入ったスタイリッシュな肩出しワンピース姿のお嬢様──東雲綾乃が眉をしかめていた。


「……ぁ、それ以上乱暴に扱わないで──」



 ◇


「──ほら、さっさと脱ぎなさい」

「わ、わりぃ……ちょっと待って、まだ心の準備が……」

「今さらね。さあ今すぐ四つん這いになって全てをさらしなさい。くくく……私たちは親友同士、何も恥じることはないわ」

「アホか!」


 置き配が災いして、大事な美少女フィギュア(一部シリコン製)を執拗しつように攻めるサイコレズ(東雲)に対し、僕は恥じらう乙女のごとく上半身を隠す。どこまでが本気か分からない東雲の言動に貞操の危機を感じつつ、コソコソと部屋の物陰でスカートのファスナーを上げた。


 というのも、いよいよ本日は『僕たちは終末の世界でアオハルする』──通称「終末アオハル」の初アフレコ日。当然、レギュラーを演じる僕と東雲は初日から参加だ。


 ちなみに、今回のアフレコでは、物語のつかみと言える冒頭部分、プロローグを収録するらしい……が。


(はぁ、ついにこの日が来たか……。ま、事前準備はバッチリだし、台詞も叩き込んである。……あとはいかに感情移入するか──)


 僕が演じる「佐伯比呂」は、主人公に恋焦がれるショートカットの美少女……に見える《《男の娘》》。ある意味、今の自分と共通点があるような。ないような。


 鏡の前でリップを塗り、ニィっと橙華スマイル。


(よし、こんなもんかな? 服も目立たないようにシンプルで統一したし、あとは……と)


 仕上げに、サラサラロングのウィッグに腕を伸ばしたら、突然背後に立った東雲にその手をバシッと叩き落とされた。


「ちょ、何するんだよ!」

「ふっ、今日の貴方に、そんな偽物は必要ないわ」


 ……はいはい、そうでした。僕は深くため息を吐く。


 ◇


 その後。


(──落ち着かない……)


 例に漏れず東雲と一緒にスタジオへ向かうことになった僕は、その道中、常に周りの視線を気にしていた。


 仕事上とはいえ、フリフリスカートを履いて公共の場を堂々と歩いていた自分にとっては今さらだが、それでも地毛のまま、ウィッグなしでの外出には抵抗がある。


 ロングヘアのウィッグさえあれば、辛うじて女性と偽れるかもしれない。だが、ナチュラルメイクを施しただけの今の僕は、流石に周りから男バレするのでは?


 それに加え、隣を歩く東雲の存在。


 東雲は壊滅的な性格は一旦置いといて、その見た目だけは誰もが認める美人だ。スタイルも抜群……まあ、一部アレだが、均整の取れたモデル体型と言える。


 いずれにせよ、そんな良くも悪くも目立つ美人と並んで歩く女装男子……どう考えてもヤバいだろ。


「あら、失礼ね。私の顔に何かついているかしら?」

「へ? ……え、ええっと、綾ちゃん、相変わらず美人さんだなーと思って」

「ふっ、当然ね。せいぜい今日は私の引き立て役として励みなさい」


 ……くそ、この悪役令嬢。いつか盛大にざまぁしてやりたい。



 ──そして、いよいよスタジオ入り。


 普段はただの迷惑な奴だが、こうした初めての現場では、常にマイペースな存在が地味に助かる。二人でバカ話でもしていれば、自然と高まる緊張もほぐれるというもの。


 そう思い、ロビーのソファーに腰掛けている東雲に目を向けると。


「…………」


 いつもなら、ふんぞり返って周囲を威圧しているはずが、今まで見たこともない真剣な面持で台本を凝視していた。


 さらに言えば、珍しく組まれていない脚が、ごく僅かに、小刻みに震えている。


 まさか……あの東雲が、緊張している、だと?


 その時。


 パタン、と勢いよく東雲が台本を閉じ、顔を上げた。切れ長の鋭い視線が僕を見据える。


 スッ、と音もなくソファーから立ち上がると、感情を削ぎ落としたような、無機質で、静かに、血のように真っ赤なルージュに染まった唇を開く。


「覚悟は良くて?」

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