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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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乙女心とは?

 ──と。あれから腕や腰をバキバキに鳴らしつつ、柏木(敬称略)から強引に押し付けられた重荷をどうにかこうにかアパートに運び込んだ。


 だが、休む間もない。段ボールの中にぎっしりと詰まった大判ラノベ本を畳の上にぶちまけて、タイトルごとに選別。せめて電子版にして欲しかった。


 でもまあ、さすがは「乙女向け」と言ったところか。どこぞの王子様がドレス姿のヒロインを抱き寄せ、ニヒルな笑みを浮かべているカバー表紙が眩しすぎる。僕が普段嗜むでラノベでは、まずお目にかからない構図だ。


 そもそも男性向けの作品において、男キャラ(主人公を含む)が表紙を大々的に飾ることは稀だ。あちらは基本、ヒロインの胸や太ももといったエロに全振りされている(※偏見です)。


 その点、女性層をターゲットとした恋愛小説は「男女(男男)」カップリングで魅せる傾向が強い。……なるほど。その辺を含めて、女性特有の感性を学ぶべきだろう。


 今後、女装アイドル声優として業界を生き残るためにも。


「……まぁ、とりあえず、一通り読んでみなきゃ始まらないか──」


 手始めに『悪役令嬢の私はなぜか腹黒王子に溺愛されてます』の第一巻を手に取って、畳に寝っ転がり、資料のつもりでパラパラとページをめくり始めたのだが。


「──アレフレッド(腹黒王子)、すごくいい奴じゃん。これは今まで読まず嫌いだったかもしれない……」


 気が付けば時間も忘れ、どっぷりと読みふけってしまった。


「──ん、でも、主役のマルちゃん(マルガリータ)は、ちょっとキャラが破綻してるような……?」


 いや、仮にもこのキャラのオーディションを受ける身で、それを言っちゃ駄目だろ。 


 とはいえ、原作を読む限り、作品の顔であるはずの女主人公が、単なるトラブルメーカーにしか見えないのも事実。


 それ以上に、周囲を固める男性陣の造形が完璧すぎて、完全にメインヒロインが攻略対象を引き立て役だ。


 このままアニメ化したところで、ヒロイン本来の魅力は視聴者に伝わらないかもしれない。


(……いや、待てよ。中の人次第、声優の演技でキャラが化ける可能性があるか? ……それこそ男の僕だからこそ出せるニュアンスが──って、そもそも受かりっこないか……どうせ面白半分でオファーされたんだろうし)


 でもとりあえずノートに「イケメンの色香に惑わされず、毅然とした態度のお芝居を心掛ける」と、演技方針をガリガリと赤ペンで書き込む。元々イケメンは敵だしな。


「ぐう〜」


 って、ふいに腹が鳴った。そういえば、もう何時間も何も口にしていない。


 台所で夜食を物色していると、背後から「はわわ〜」「もう、アンタのことなんて、私は知らないから!」と、馴染みのヒロインボイスが聞こえてくる。さっきまで読んでいた乙女本とは打って変わって、なんか実家に戻ってきたような安心感。


 それを、リアル悪役令嬢──東雲綾乃が、台本片手に真顔で演じているものだから、シュールすぎる。


「──わ、私、本当はアンタのことが……だ、大好きなの……って、違う、違うから!」

「おい、東雲……」

「アンタなんか何とも思ってない!」

「って、おい、こらっ!」

「なによ、さっきからうるさいわね。邪魔をしないでくれるかしら」

「うっ……あ、あの、これからお湯を沸かすんで、お夜食など、いかがでしょうか……」


 時刻は、深夜二十三時過ぎ。


 近所迷惑もいとわず芝居の稽古に励んでいる東雲嬢。その不可視の魔眼……じゃなくて真剣な眼差しに感化した僕は、彼女の分まで食事を用意することに。


 ──というか、こいつは一体いつからここに居座っているんだ? ……まぁ、今さら考えるだけ無駄だろうけど。


 その後、東雲は勝手に人のノートPCで配信アニメを視聴し始めた。「ふふ……」と不気味に口角を釣り上げ画面を凝視する様は、魔王軍の女幹部なごとく闇深い……っていうか、そのPC、ロックをかけていたはずなんだが?


「あ、そういえば東雲センパイ、今日はたしか、オーディションとか言ってたよな?」

「(ピキッ)」


 あ……地雷を踏んだ。


 眉間に不可視の怒りマークを浮かべる東雲から、ササッと目を逸らす。これ以上この話題には触れるのは、命の安全上よろしくない。



 で、結局、その後はまともな会話もなく、東雲は画面を無言で睨みつけ、僕は僕で本の続きを読み、いつの間にか、僕は寝落ちしてしまったらしい。


 ──そして、朝。


 東雲の姿は、影も形もなかった。


 ただ、ちゃぶ台の上に、ラップをかけた拳大の塊をポツンとひとつ残して。


 具なし。塩加減もまばら、少し不格好なそのおにぎりをかぶりつきながら、僕は見慣れた天井をぼーっと眺める。


 ……んで、結局アイツは何しに来たんだ?


 うーん、やっぱり女心ってやつは、難解すぎて良く分からん……。

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