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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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38/43

後悔。

 四月某日。


 本日は『オレの異世界転生が全然ハーレムじゃなかった件』の初アフレコだ。僕は重い足取りのままスタジオ入りする。


 例によって──メイク盛り盛り、春らしいマキシ丈ワンピースにカーディガンを羽織った僕、橙華とうかが演じるは、「アニス」という爆乳メイドだ。


 原作ではもっと後の登場だが、「ヒロインは出し惜しみせず初回からガンガン出せ」というアニメ特有の謎理論のおかげで、第一話からの参戦となった。


 といっても、サブヒロインゆえに出番は少ない。僕は「ゔぁるれこ」の雛月ひなづきを演じる時より、幾分リラックスしてマイクの前に立つ。


『──もう、ご主人さまぁあー、もっと、アニスを……あぁあああっ!』


 ……前言撤退。この変態メイド、わずかな登場のくせに台詞がいちいち叡智で濃すぎる。無駄に芝居の難易度が高い。つうかコイツ、設定では、悪徳貴族にしいたげられている薄幸なメイドのはずだが、主人公が命を張って助ける必要なくね?


『──ああん、もっと……もっとぉおおお♡』


 そもそもこんな変態キャラ。女性声優が誰もりたがらないから、あえて自分(♂)に回ってきたんじゃなかろうか? とモニター越しに映るアニスのアヘ顔を見てそう思った。




「──オッケーです。お疲れ様でした!」「次回の収録は──」


 その後トントン拍子で、最後のガヤ撮りも含め、収録は案外あっさりと終わった。


 声優業界の異端児である僕についても、他のキャスト陣(ほぼ新人女性声優)、収録スタッフ等、誰も一切触れてこない。それを危惧してた身としては、案外拍子抜けだった。


 初挨拶のときもごく一般的な新人扱いだったし。腫れ物扱いだった「ゔぁるれこ」の収録時とはえらい違いだ。


 ──っていうか、そもそもここのアニメスタッフに関していうと、僕の複雑な事情(女装)を知っての採用だったのか、それは定かではないし、怖くて聞けない……が、波風立てず穏便にやり過ごせるならそれに越したことはない。


 そんな安堵から、つい前のスタジオ感覚で男子トイレの扉を開けたら。


「うぉおおおっ!?」

「ぁ……」


 さっきまで共演してた若手男性声優と出くわしてしまった。


 ……うん。前途多難だ。



 ◇


 そんなこんなで紆余曲折うよきょくせつはあれど、地道にアイドル声優の橙華として仕事をこなしていたある日のこと。


 まだアフレコはおろか、顔合わせすら済んであない段階で、衝撃のニュースが飛び込んできた。


『僕たちは終末の世界でアオハルする』──略して「終末アオハル」のアニメ映画化がネット上に大々的に告知されたのだ。


 公式ページのキャスト欄、その末席に、ひっそりと「橙華」の名前が刻まれている。


(──いよいよ、世に出ちゃったんだ……。今後は、テレビとかでガンガンCMが流れるだろうな……)


 出先のファストフード店。冷めかけのホットコーヒーをすすりながら、そっとスマホをバッグにしまう。


 コメント欄は、あえて開かない。……いや、怖くて見れるわけがない。


『橙華って誰コイツ?』『新人? 棒読み(笑)』そんな冷ややかな言葉が並んでいる光景が、容易に想像できてしまう。


(なんで、オーディションなんて受けちゃったんだろう……)


 今さら、どうしようもない後悔が胸を締めつける。マイナーな深夜アニメならまだしも、「終末アオハル」は全国区の劇場版だ。自分みたいな異物が混じっていい場所ではない。


 本当に今さらだが……。


(……いや、ウジウジ考えたってしゃあないって、今は次の仕事に全集中だろ。ゲームのアフレコは初めてなんだしさ──)


 自分に言い聞かせ、気合一発、席を立ち上がった。


 ……けれど、何だか足がガクガクして、震えが止まらない──。

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