表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/44

これが僕の生きる道。

「──んで、姉さん。……これを僕にどうしろと?」

「うん、あのね。昨日モールで見つけた瞬間、登輝くんにぴったり! って確信したの。お姉ちゃん、嬉しくて即買いしちゃった! ……あれ、もしかしてピンク、嫌いだった?」

「色の問題じゃない! そもそも男の僕がこんなもん履くわけないだろ!?」


 暦は如月きさらぎ。真冬の隙間風が吹き抜ける、築云十年の木造アパート。


 華やかにラッピングされた袋から現れたのは、繊細なレースが施された女性用下着一式。それを両手で掲げた僕(♂)の、至極真っ当な主張が六畳一間にとどろく。


「はふ、んぐ……。ひどいよ登輝くん。せっかくお姉ちゃんが選んだのに……よよよ」


 コタツで煮えるおでんのちくわを咥えたまま、姉、神坂三鈴かみさかみすずがわざとらしく鼻を啜る。明らかに嘘泣きだろ。


 あの一件(痴漢冤罪)以来、何かと理由をつけては僕の部屋に転がり込み、タコパだ、鍋パだと勝手気ままに宴を催す我が姉君。今回はおでんパーティーかと思いきや、さらりと手渡された実弟へのプレゼントがこれだ。本気なのか、高度な一発ギャグなのか、僕の脳内CPUは解析を拒否した。


「ど、どお? 似合うかな?」


 とはいえ、多大な恩義(借金)がある愚弟としては、ここで引くわけにいかない。潔くジャージを脱ぎ捨て、Tシャツとトランクスの上からピンクのブラとショーツを装着。アルコールの勢いも手伝って、気分はすっかりお色気担当ヒロインだ。


「もう、登輝くぅん、かわゆいー!」

「よーし、じゃあ次はマッパでフル装備しちゃうぞー!」


 狂乱の宴が最高潮に達した、その時。


「──お邪魔するわよ」

「っ!?」

「あ、東雲ちゃん、いらっしゃい〜」


 唐突なる、東雲綾乃しののめあやの、襲来。


 今の僕は、客観的に見て通報案件。おまけにグラビアアイドルさながらのポージングをキメた変質者だ。


 酔った勢いとはいえ、あまりにも悪ノリが過ぎた……かも?


「……え、あ、え、えと」

「あら、今夜はおでんかしら。じゃあ私は、そうね、大根と玉子をいただくわ」


 事故現場を正面から目撃したはずの東雲嬢は、一切顔色を変えなかった。玄関で淡々とロングブーツを脱ぐと、石化している僕を華麗にスルー。コタツでカップ酒を煽る姉の正面を陣取り、早々にくつろぎモードへ移行する。


「え、ええっと……東雲センパイ?」


 今さらながら台所の隅で身を隠すようにうずくまっていた僕は、恐る恐る声を掛けた。


「ん、何かしら?」

「あの……その。今の僕を見て、何か、こう……思うところは……?」


 すると東雲は、いい感じに味が染みた大根をフーフーしながら、面倒くさそうに。


「はふ、はふっ……。いいんじゃないかしら?似合ってると思うわ」

「リアクションそれだけ!?」




 ──という大惨事、あるいは珍事から週明け。


 本日、長いようで短かった『ヴァルキリーレコード』第十二話──アニメ一期の最終話となるアフレコ当日を迎えた。


 収録は十六時スタートだが、日中スケジュールがガラ空きの僕は、早々にスタジオ入り。ロビーのソファーを陣取り、台本の最終チェックに没頭しているところだ。


 ちなみに、今日の装いは、クリーム色のタートルネックにマキシ丈のフレアスカートを合わせたシンプルコーデ。


 つい最近までファッションに無頓着だった自分が、ここ数ヶ月で随分と詳しくなったものだと感心する。


(それも今回の収録が終われば、当分こんな格好ともおさらばだな……)


 感慨深く台本を胸に抱き、ぼんやりと天井を仰いでいると、不意に足元がスーッと……。


「──って、おい東雲、何やってんだよ!?」

「なにって、先日のショーツを本当に履いてるか気になって確かめただけよ。悪い?」

「悪いに決まってるだろ! 公衆の面前で何を考えてるんだ……まったく──」


 音もなく現れた東雲によって、ペラリとめくり上げられたスカートを大慌てで押さえながら、いつか本気でコイツをセクハラで訴えるべきか思案していると、当の本人は悪びれる様子もなく、どこか嬉しそうに話題を切り替える。


「ところで橙華さん、これは柏木マネージャーから直接聞いた話だけど。貴方は知ってるかしら?」

「……なにをさ」

「近々『終末アオハル』の製作告知が大々的に発表されるそうね。当然、声を演じる私たちの情報も順次公開されるわ」


 そして、話は僕の返事を待たず続き。


「これで私も、主演声優として一気に知名度が上がるわ。なにしろ全国上映よ!」


 珍しく歓喜を露わにする東雲とは対照的に、僕は言葉に詰まるが。


「へ、へえ……。そ、それはそうと東雲センパイ。この僕、いえ、私については、今後どのように紹介されるか、柏木さんから……その、詳しく聞いてたり……する?」

「ええ、当然聞いてるわ。もちろん──」


 瞬間、脳裏に最悪な結末が駆け巡り。


「新人声優の、橙華として、本格的に宣伝するみたいね」


 僕は力なくソファーにもたれ掛かってしまう。


 いや、そもそもオーディションを受けた時点で、覚悟はしてたつもりだ。


 だが、声優を続けていく限り、僕には《《女装》》アイドル声優としての道しか残されていないのか……と、今さらながら肯定も否定もできない自分がいる。


(……ってか、このまま世間一般に男バレしたら、それこそ声優人生の詰みじゃ……)


 大事な収録を前に、僕のちっぽけなメンタリティは、崩壊の危機に瀕していた。


(──でも、今はやるしかない……)


 やるしか、ないんだ──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ