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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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女子会?

「──き、今日の収録は僕が……じゃなかった私が色々と迷惑掛けちゃったから……こ、ここは何でも奢っちゃう……ね」

「わー、橙華とうかさん、ありがとうございます!」

「…………」

「ほ、ほら、綾ちゃんもムスッと黙ってないでさ、どしどし頼んじゃって──」


 スタジオから徒歩十数分。某ファミリーレストランのボックス席にて、僕──橙華とうか(女装アイドル声優)と東雲綾乃しののめあやの(悪役令嬢的アイドル声優)、そして小倉もも(訳あり現役JKアイドル声優)の計三人は、アフレコ帰り、仲良く……とは言い難いが、一応は分けへだてない親睦を深めている……つもりだ。


 とはいえ、周囲の客から見れば、帽子にサングラス姿という、いかにも怪しげな妙齢の女二人が、制服姿の女子高生を取り囲んでいるという、まごうことなき事案。絶賛女装中の僕も大概だが、特に東雲がひどい。その派手な見た目からして、未成年をたぶらかす詐欺集団の女ボスである。


「じゃ、私、みんなの飲み物を持ってくるから!」

「あ、わたし、オレンジジュースをお願いしますね」「ホットコーヒー、もちろんエスプレッソで」


 居たたまれなさに耐えかねた僕は、パシリという大義を掲げ、一時席から戦略的撤退を余儀なくされる。


 即座にドリンクバーへと逃げ込み、ももちゃんご所望のオレンジジュースをグラスに注ぐ。東雲のエスプレッソは──んなもん無いので、普通のブレンドでいい。どうせあいつにコーヒーの味の違いなんて分かりはしないだろう。


「お待たせ」

「遅い」「橙華さん、ありがとうございます」


 戻ればこれだ。


 腕を組み、隠そうとしない苛立ちを露わにする東雲。つい先日、熱くガチな百合ゆり? をカミングアウトしたJK。


 もはや不安しかない。


 いっそ、そこいらのアニメヒロインよりもキャラが濃い二人を放っぽり出して、このまま自宅にフェードアウトしたいんだが……。


 そうもいかず、僕は折を見て、わざわざテーブルを遠回り。さり気なく元の席、東雲の正面を避けて、斜め向かい──つまり対角線上に席へと移動を試みた。これならももちゃんと東雲が正面で向かい合う形になり、色々と事が運びやすい。


「で。わざわざ席を変える意図は何かしら?」

「え、ええっと……」


 努力の甲斐なく、鋭い語調の東雲に勘づかれた挙げ句、結局、僕はすごすごと元の席に座り直すこととなる。……まぁ、元の鞘に収まった、というわけだ。


「(ちっ)」


 ……今、隣のももちゃんから舌打ちが聞こえた気がするが。たぶん気のせい、と思いたい。


「……あの、ちょっとお手洗いに行ってきますね」


 ももちゃんが静かに立ち上がった。コーヒーにミルクとシロップをドバドバ投入している東雲は、これに対し無反応。


「あ、うん」

「料理が来たら、先に食べちゃってくださいね」


 と、萌えボイスを残してももちゃんが去る。その直後、ピコーン、と僕のスマホが短く鳴った。


『わたしと綾乃さんの仲を取り持ってくれる約束、覚えてますよね?』


 届いた刺々しいメッセージを秒で読み、チラリと正面の東雲を盗み見る。奴はタッチパネルのメニュー操作に夢中のご様子だったので。


『もちろん』


 僕はテーブルの下で、隠れるように返信。


『良かったです。頼れるのは橙華さんだけ』 


 ……マズい。期待値が高すぎて胃が痛い。

  

「女かしら?」


 その時、こちらを一瞥だにせず、東雲が囁いた。清楚ボイスでありながら、まるで地獄の底から響いてくるような、まるで呪詛。


 ……つうか、思い切りバレてるし。


「……まさか、男だよ?」

「だったらもっとタチが悪いわ」

「何でだよ!?」


 これ以上の追求を避けるべく、僕は再度ドリンクバー(セーフティゾーン)に避難し、コポコポとメロンソーダを注ぎながら、いかにしてクセ強ヒロインズ、東雲綾乃と小倉ももを《《恋愛》》的にマッチングさせるべきか、作戦を練る。


 あの時、自称〝心は男の子〟な小倉ももが僕に持ち掛けてきた相談。それは、好きで好きで好きでたまらない東雲綾乃(なぜだ?)との仲を、自分と同類だと勘違いされている僕に取り持ってもらいたい──掻い摘んで言うとこうなる。


 いや、それなんてムリゲー?


 そもそも東雲は、若手有望株のアイドル声優であるももちゃんを、快く思ってない節がある。……というか、あからさまに敵意剥き出しだ。


 よりによって、そんなバチバチの東雲と仲良く……願わくば、百合展開……いや、恋人同士になりたいなんて、クソゲーを通り越してクリアー不可のバグゲーだろ。


 って、同じ女同士なんだし、普通に友達でいいんじゃね? 東雲も友達がいないし、案外ウェルカムなんじゃないか──なんて、淡い期待抱いた訳だが。


「──なんで私があんなカマトト女と仲良く夕食を囲まないといけないのかしら。まるで騙し討ちにあった気分だわ」


 そう、まずはフレンドリーに仲を深めてもらおうと、収録帰りに東雲を夕食に誘い出したまでは良かった。だが、ももちゃんが同席したらこの有り様。まさかここまでとは……。


 一応、これでも気を遣ったつもりだ。ももちゃんは動機が不純とはいえ、性別上は女の子だし、東雲にとっても顔見知りだし、だからこそ、自然の流れで食事会……もとい「女子会」を企画したわけだが、しかも全部僕の奢りである。今の自分、半分ニートなんだが?


「お待たせしました!」

「あ、」

「ふん……」


 それこそ最悪のタイミングでももちゃんが帰還した。頼んだ料理も次々とテーブルに運ばれてきて、もはや逃げ場はない。


「と、とりあえず、食べようか」

「はい、いただきます!」

「…………」


 かくして、訳アリな女性二人+αによる高難易度ムリゲーの女子会が幕を開けた。


(あれ……おかしいな。ハンバーグ食ってるはずなのに、全然味がしないんだけど?)

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