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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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偽りの絆。

『──アナタは何なの!? わたしのお兄ちゃんに、これ以上付きまとわないでよ!』


愛美まなみさん、だったかしら。……貴女こそ、何をそんなに怯えているの? 可哀想に。慎也の心が貴女から離れていくのが怖いのね。でも分かるわ。所詮は遺伝子という名の、ただの偶然。同じ母体から生まれた〝兄と妹〟という偽りのきずな──それが、貴女に残された唯一の絆だもの』 


『うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい──っ!』


みにくい……。それが貴女、片瀬愛美の出した答えなの?』


『うるさいっ! や、八城雛月やしろひなづきぃいいいい、お前なんか、お前なんか……消えちゃえええええっ!』


『愛美……約束するわ。今すぐその忌まわしき呪縛から貴女を救ってあげる──』




『──はい、Bパートオッケーです。お疲れ様でした。それではこれより20分間の休憩を挟みます』


 カフ(マイクのスイッチ)を切るカチッという音と同時に、ブース内の赤いランプが消え、八城雛月役を演じていたなんちゃってアイドル声優の僕──橙華と、片瀬愛美役の現役JK(女子高生)アイドル声優、小倉ももは、周りに一礼し、マイクの前から離れた。


 何度もリテイク(撮り直し)を繰り返し、額から冷や汗タラタラ、総メイク崩れの僕と違って、終始完璧な演技力を披露した小倉もも──ももちゃんは、その達成感からか、とても満足気に笑顔を浮かべていたりする。




「──小娘に圧倒されてみっともないわね」

「あはは……」


 何はともあれ、スタジオ内に設置された古い長椅子で一人壁にだらーっともたれ掛かっていると、今回のアフレコでは一言二言しか出番が無かった、悪役令嬢的アイドル声優、東雲綾乃にしれっと絡まれた。休憩の後に収録が控えているガヤ(ガヤガヤざわついたその他大勢の声)撮りのために居残っていたらしい。


 なんやかんや言って東雲は、意気消沈の僕に冷えたペットボトルのお茶を手渡してきた。素直に嬉しい。僕のリテイクのせいでイラついているのかと思えば、意外とそうではなかったみたいで何より。


「あの小娘にしては、中々の演技だったのも認めざるを得ないわね。天才の私ならともかく、凡人の貴方が圧倒されるのも無理がないわ」


 あ、前言撤回。コイツ結構イラついてるわ。


 共演キャスト陣に囲まれて和気あいあい談笑しているももちゃんを、ざまあ後の悪役令嬢のような形相でギシギシ爪を噛んでるのが痛々しい……というか怖い。それは、演技に対しての対抗心からなのか、はたまたコミュ力に対しての単なる嫉妬かは知らんが。


「だよな──」


 という僕も、今の自分が女装してるのも忘れて、つい男っぽいいつもの口調でボヤいてしまう。


 今回の収録はアニメの中盤の山場に当たる、小倉ももが演じる主人公の妹、片瀬愛美の──いわゆる〝闇堕やみおち回〟と呼ばれるものだった。


 とはいえ、本来の愛美は、言わばテンプレ妹キャラ──よくあるブラコン気質のお兄ちゃん大好き妹だったのだか、本編のヒロイン、八城雛月の登場によって、それが徐々にヤンデレ化していき──そんな感情の起伏が激しい闇落ち妹キャラを、声優歴一年目のももちゃんが鬼気迫るお芝居で見事に演じきったものだから、それをすぐ隣で目の当たりにした僕(声優歴三年目)が圧倒されるのも当然だったと思う。先輩としては情けない限りだけど。


 それはさておき。


「──まぁいいわ……所詮は凡人がなせる限界があの程度ね……ぶつぶつ(呪呪)、天才の私だったらもっと上の演技を……ぶつぶつぶつ(呪呪呪)──」

「あの……東雲さん?」

「──それに友達だったら私にも……ぶつぶつぶつぶつ(呪呪呪呪)──、あんな誰にも媚びる下賎な小娘には……、ぶつぶつぶつぶつぶつ(呪呪呪呪呪)──、私は絶対に負けない……ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶ(呪呪呪呪呪呪のろ)──」


 ……あ、駄目だコイツ。完全に闇落ちしてる。つうか、東雲の精神状態、ガチでヤバくないか?


 そんな東雲のことは一旦棚上げして、僕は崩れたメイクを直すためにスタジオを一時離れることにした。向かった先は女子トイレではなく当然ながら男子トイレだ。この現場の関係者には僕の事情(女装)はおおむね露呈しているので、公共の場と違って堂々と男子トイレを使えるのが救いではある。


 それでも、鉢合わせた男性声優やスタッフに「うわっ」と顔をされるのは日常茶飯事。そんな時は慌てず「お疲れ様です、うふ」と、営業スマイルで大でも小でも個室に直行すればいい。流石にスカート姿で立って用を足す勇気はない。ムリゲーすぎる。


 鏡の前でファンデとリップを手早く塗り直し、「手慣れたもんだな……」と自己嫌悪に浸りつつ、スタジオの廊下を戻る。……が、視界の端にとある人物を捉えた瞬間、僕は反射的に回れ右。


「……橙華さん、なんで避けるんですか?」

「へ? べべ、別に逃げ、避けてなんてないよ?」

「嘘ですね。ええ、絶対に避けています。収録中だって、一度も目を合わせてくれませんでしたから」


 逃走に失敗し、背後からガッチリ右手をつかまれる。振り返る勇気が出ない。


「ええっと……あの」

「こっちを向いて話してください」


 両頬を小さな手のひらでムギュっと挟み込まれ、強制的に振り向かされた。


 アヒル口となった僕と対面するのは、あの時の白ギャルファッションではない、清楚なセーラー服姿が初々しい彼女──自称〝男の子〟の小倉ももであった。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

クセ強のヒロイン(主人公も含む)ばかりですが、今後も温かい目で見守っていただけると幸いです。

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