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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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姉と弟のソナタ③

「さあ、お姉様、これが〝橙華〟さんよ」

「──って、東雲っ」


 東雲が意気揚々と姉さんに向けてかざしたスマホ。そこには女装した僕──橙華とうかが映り込んで……はいなくて、イヌ……つうか、どこか近所の家に飼われていそうな柴犬が画面の中でニンマリとしていた。


「──ええっと……東雲センパイ?」

「ふふん。この子が橙華さんよ、どう、ブサイクでしょう」

「えー、カワイイじゃない。ちょっと登輝くんにも似てるし」


 おい、脅かすなよ東雲……てっきり、お前のことだから姉さんに僕の女装姿をバラすかと思ってた。


「(この借りは高いわよ?)」

「(ごめん……後でラーメンをおごるよ)」

「(は、ラーメン? 冗談は女装だけにしなさい)」

「えー、なになに? 二人して何アイコンタクトしてるの? もしかしてお姉ちゃんだけ仲間外れ?」


 まあ、何はともあれ、どうにかこの場は収まった、って感じだ。姉に関しても、〝トウカ〟なる単語は、とっくに頭の中から綺麗さっぱり消え去ってくれたらしい、と切に願う。現にそこから始まった姉と東雲の柴犬トークを尻目に、僕はサイフとスマホを掴み、コンビニへ疾走。


 そこで姉さんが好きなスイーツ(おつとめ品)をいくつか買っておく。ついでに東雲の分も。あと酒も何本かいるよな? これで適当に姉をもてなしつつ、地雷源じらいげんの東雲を除去すれば、なんとかあの場はしのげる……かどうかは神のみぞ知るが、とにかく賄賂わいろは必要だろう。……あれ、デジャヴ? 前にも夜中にこうしてパシったような……?


 で、コンビニ袋を片手にアパートに戻れば、東雲と姉さんがテレビを観ながら談笑していた。……つうか、何で仲良くなってるの? まさに水と油って感じの二人だけど。女同士のコミュニケーションは摩訶不思議だ。


「あ、登輝くん、お帰り〜、コンビニに行ってたんだぁ」

「貴方にしては気が利くじゃない。さあ、早く私に献上なさい」

「ほらよ」


 いつもに増してハイテンションな姉さんはさておき、東雲の高飛車発言は、もういちいち真面目にツッコむのが面倒くさいので、袋から適当に取り出した飲み物を投げ渡す。


「姉さん、デザートを買ってきた……」

「んぐぅ〜、なぁに?」


 僕が上着を脱いでる隙に、ちゃっかり姉さんはコンビニ袋から取り出したシュークリームを口いっぱいに頬張っていた。ちなみに東雲はといえば、缶ビール片手にさきイカを咥えていたりする。オッサンかよ。



『──わ、わたしは、絶対にあなたのことを許さないっ!』



 そのとき不意に、東雲ツンデレボイス。台所で一人洗い物をしていた僕は、驚きのあまり皿を落としそうになったが、ギリでキャッチ。


「ちょ、いきなり何だよ!? ぼ、僕なんか悪いことした?」

「は? なによ、今いいところなんだから黙ってなさい」

「登輝くん、今「穂香ほのか」ちゃんの見せ場なんだよ?」


 はて……ホノカ? って、東雲が演じる水口穂香じゃん……ということは、今二人が和気あいあいと眺めてるテレビは、まさかの「ヴァルキリーレコード」、略して「ゔぁるれこ」だったりする? 


 ──となると、僕が毎週欠かさずレコーダーに録画しているやつを勝手に再生しているらしいが……どうせ、かまってちゃんの東雲のことだ、自慢がてらにアニオタでもある姉に見せびらかせているのだろう。


『──まって、慎也っ!』


 それにしても、穂香って子は、常に感情剥き出しだよな……本当は誰にも分けへだたりなく優しい女の子なのに。普段は淡々とした口調で、全くもって他人に優しくない東雲が、そのキャラを演じるのって、それこそミスキャストだよな……ま、それこそ僕が言えた義理じゃないけど。


『──ありがとう。助けてくれて』


 台所で黙々と後片付けをしながら、テレビ上で流れる東雲の清楚ボイスを聴いていると、現実とのギャップで頭が混乱してくる。今絶賛流してる話しって、いわゆる〝穂香の回〟なんだよな。


 ちなみに僕が演じる「八城雛月」は、この回では、ほとんど出番がない。たしか冒頭、Aパートでしか台詞がなかったような……まぁ、それぐらいだったら、たぶん姉さんに僕の演じた声だって気づかれてない、よな?


「──わぁ、東雲ちゃんの穂香ちゃん、すごく良かったよ! 改めてお姉ちゃんは、声優さんを尊敬しちゃう〜」

「え……ええ、それほどでも……あるわ」


 アニメを一通り見終わった二人は、ますます意気投合し、姉さんなんか東雲にセクハラのごとくハグしてる始末。本当にさっきまでの剣呑けんのんさは一体何だというぐらい仲良くなってる……ちなみに僕はもっぱら蚊帳の外だ。二人の小間使いと化している。


 って……まさか、このまま東雲までうちに泊まる、ということは、流石にない、よな?


 と、そんな時だ。



「あ、それと登輝くんも良かったよ?」



 突然、僕に背中を向けたままの姉さんがそう呟いた。


「へ……な、なにが?」


(ま、まさか……な……?)


 僕は咄嗟とっさに東雲にアイコンタクトを試みた。すると東雲は「(私知らない)」と珍しく狼狽うろたえたように顔をブンブンと振る。


 ──そして姉は、顔だけ斜め四十五度をさらに振り切り、瞬きもせず、ニマーっと口角を上げた。


「ねぇ、《《橙華》》、ちゃん──」

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