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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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13/43

嵐の予感。

『はーい、皆さんこんにちは! 新アニメ「ヴァルキリーレコード」八城雛月やしろひなづき役の橙華とうかです!』


『…………』


『さ、さて、前回に引き続き、この生配信番組では「ゔぁるれこ」の魅力を、水口穂香みなぐちほのか役の東雲綾乃ちゃんと二人でゆる〜くトークを語り尽くしていきたいと思います! みんな、ブラウザバックしちゃダメだよ? 最後までよろしくね! ……それで、ええっと…………綾ちゃん?』


『なにかしら?』


『さっきから画面を見ずに指を高速タップさせて何をしてるのかな〜……なんて(おい、本番中だぞ!?)』


『決まってるじゃない。番組アンチのクソリプライよ、ほら、ポチッと……お前こそ(ピー)』


『おい、やめっ……あー、は、はいはーい。気を取り直して、アニメ第二話のウェブ予告を流しちゃいます〜。で、ではでは、VTRどうぞっ!』





 ◇


『ヴァルキリーレコード』の初回放送から、数日が経過した。


 僕が危惧していた新人《《女性》》声優、橙華への詮索だが、後日ネットの反応をチェックした限りでは、特に問題はなさそうだった。


 放送前のネット配信ですでに橙華として顔出しをしていたこともあり、視聴者からすれば、ぽっと出の新人アイドル声優など、余程のことがない限り、関心の対象外なのだろう。


 以前、僕が外出した際の様子がネットに晒されたのも、ごく少数の奇特な声優マニアが過剰反応しただけだった……そう思いたい。


 何はともあれ、このまま波風立てずに「ゔぁるれこ」のメインヒロイン、八城雛月を最後まで演じきるしかない。番組さえ無事に終われば、元の底辺声優に戻れるはず……このまま女装してまでアイドル声優を続けるハメになるよりは、そっちの方が余程マシだろう。


 ──そんな異常な状況下でも、どうにかこうにか収録を重ねてきたのだが。


 元々が大人気ラノベの映像化だったことに加え、低予算ながら安定した作画と引きの強いストーリー展開が功を成し、聞けば円盤(Blu-ray等)の購入予約も絶好調、早くも二期の制作が内定しそうだと、制作会社が嬉しい悲鳴を上げているという。


 ……ええっと、マジですか?


 本来、出演作が評価されるのは声優として喜ばしい限りなのだが、今の僕にとっては、冷や汗がダラダラもんだ。ヒットすれば当然、動画サイト等で取り上げられる機会が増える。


 そうなれば当然、作品の顔であるメインヒロインが注目されるのは必然だ。


 当然、中の人も。



 ──そして今日、紆余曲折あれど、無事に収録を終えた僕は、黒髪ロングのウィッグにスカート──女装姿のまま、柏木マネージャーと待ち合わせていた。仕事の打ち合わせがてら、夕食をご馳走してくれる……とのことだが。


 加えて今回は、東雲も同席するらしい。……もう、このメンツでは嵐の予感しかしない。


「──神坂君、いえ、橙華君。収録は順調なようですね」

「……どうも」

「東雲さんも、お疲れ様です」


 柏木さんに連れてこられたのは、入り口でコートを預けるような都内でも有名なフレンチレストランだった。おそらく何かと抜かりがない彼のことだ、随分前から予約していたのだろう。


(──うーん、やっぱり雲行きが怪しくなってきた。そのいけ好かないイケメンスマイルに僕は何度騙されてきたことか。


「それで柏木マネージャー、さっさと用件を言ってもらえるかしら?」


 僕の隣で、食前酒を口に運んでいた東雲が切り出す。今回ばかりはそんな毅然きぜんとした物言いが心底頼もしい。僕一人では、どうせ言葉巧みに丸め込まれるがオチだから。


「それは追々。せっかくですから、今は食事を楽しみましょう」


 ワイングラスを片手に微笑む柏木さん。この腹黒メガネは、一体どんな爆弾を投下するつもりだ? ……まあ、今さらどんな無茶振りされても驚かないが。


 それはそうと、コース料理として運ばれてくる料理はどれも絶品だった。流石は星付きのレストラン。あの食にうるさい東雲でさえ、実に満足げに頬を緩ませてい……



「──ええ。ところで二人には、今後ユニットを組んで〝歌手デビュー〟していただきます」



(──る……は?)


 エスカルゴをフォークでほじくりながら、何をさらりと言っているんだ、この腹黒メガネ。


「ちょ、ちょっと待ってください! おい東雲、お前もワインなんか飲んでないで何か言ってやれよ」

「そうね。初ライブはせめてアリーナクラスを用意してもらえるかしら」

「お、おい、東雲──」


 思わず立ち上がった拍子、テーブルが盛大に揺れる。


 最高の料理も、その場の空気も、すべてが虚無と化した。

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