1-5. 関数の概念:The concept of function
部屋の明かりを少し落とし、私は透のノートの新しいページをめくりました。
「ねえ、透。これまでは、数字そのものや、それが動く範囲(区間)についてお話ししてきたわね。でも、数学が本当に面白くなるのはここから。バラバラに動いているように見える数字たちが、実はお互いに『きまり』を持ってつながっていることに気づく時なの。」
私はノートの左側に x、右側に y と書きました。
「例えば、さっきの空気のお話 を思い出して。温度を一定にしたまま、空気の『圧力 p』をどんどん大きくしていくと、『体積 v』はどうなるかしら?」
「ええと、ギュッと押しつぶされるから、体積は小さくなるね。」
「その通り! つまり、p という数字が決まれば、それに応じて v という数字もたった一つに決まるわよね。このように、ある変数 x の値が決まったとき、それに対応してもう一つの変数 y の値がたった一つに決まる関係のこと、これを数学では『関数(Function)』と呼ぶのよ 。」
私は数式を書き込みました。
「この関係を、魔法の言葉で y = f ( x ) って書くわ 。 x は、私たちが自由に選べる『独立変数』。そして y は、その x に従って決まる『従属変数(関数)』なの 。」
「お母さん、それって『原因』と『結果』みたいなもの?」
「ふふ、鋭いわね。まさにその通り。この世界のあらゆる法則は、関数の形で書くことができるのよ。例えば、三角形の面積 S は、三つの辺の長さ a, b, c が決まればたった一つに決まるわよね。この場合、S は a, b, c という三つの独立変数の関数になるの 。」
私は透のペンを借りて、ノートの端にグラフを描きました。
「関数を表す方法はいくつかあるわ。一つは『式』で表す方法(解析的方法)。もう一つは、実験の結果をまとめた『表』。そして、一番わかりやすいのが『グラフ』よ 。 グラフを見れば、二つの数字がどんな風に響き合って変化しているのか、一目でわかるでしょう?」
「数字のつながりが、目に見える形になるんだね。」
「ええ。この『関数』という考え方こそが、近代的な科学の扉を開く鍵だったの。バラバラな出来事の中に、変わらない『きまり』を見つけること。透がこれから学ぶ数学は、その美しいきまりを見つけるための冒険なのよ。」
私は透の肩を抱き寄せ、開かれたページを指差しました。そこには、ただの文字の羅列ではなく、世界を動かす法則の鼓動が刻まれているようでした。




