2-17. 実数の演算:The operations on real numbers
夜もすっかり更けましたが、私たちは今、数(実数)という広大な大地の真ん中に立っています。透は、実数が「隙間なく詰まっている」という話に深く感じ入っているようです。
「透、実数が完璧な連続体であることはわかったわね。でも、ただ詰まっているだけじゃなくて、そこで自由に計算ができることが大切なの。『実数の演算(The operations on real numbers)』。有理数から無理数までを含む『実数全体』で、どうやって厳密に計算を定義するか、というお話よ」
私は、無理数の代表として √2 を例に挙げました。
「有理数の足し算や掛け算は簡単よね。でも、終わりがない無理数同士の計算はどうすればいいかしら? スミルノフはここで、**『有理数による近似』**という考え方を使うのよ」
「例えば、実数 a と b を足したいとき、それぞれの値を挟み込む有理数の列を考えるの。
* a よりわずかに小さい有理数 a_n と、わずかに大きい a'_n
* b よりわずかに小さい有理数 b_n と、わずかに大きい b'_n
このとき、和 a+b は、常に a_n+b_n と a'_n+b'_n の間に挟まれているはずよね。この『挟み撃ち』の幅を極限まで小さくしていくと、たった一つの実数が決まる……。これが実数における演算の定義なのよ」
透はノートに不等号を書き込みました。
「無限に続く数字も、有理数でサンドイッチにして追い詰めていくんだね」
「その通り! この方法を使えば、足し算、引き算、掛け算、そして 0 で割ることを除いた割り算という『四則演算』が、実数の世界でも完璧に機能することが証明されるわ。さらに重要なのは、これらの演算が次の性質をすべて満たしていることよ」
### 実数の演算が持つ「美しき秩序」
*交換法則: a + b = b + a, a・b = b・a
*結合法則:( a + b ) + c = a + ( b + c )
*分配法則:a・( b・c ) = a・b + a・c
「当たり前のように見えるけれど、これらが無理数を含むすべての実数で成り立つからこそ、私たちは代数的な計算を安心して行えるの。そしてもう一つ、**『順序の性質』**。どんな二つの実数 と を持ってきても、必ず a > b、a < b 、a = b のどれか一つだけが成り立つ。実数の世界には、完璧な背の順(順序)があるのよ」
「これで、計算のルールも、数の並びも、すべてが整ったわ。スミルノフ教程の第1巻、その基礎工事がこれでようやく完了したのよ、透」
私は誇らしげにペンを置きました。




