2-16. 実数:Real numbers
夜も深まり、灯火の光がノートの上に静かな影を落としています。透は、これまで「極限」という抽象的な概念を学んできましたが、私たちが当然のように使っている「数」そのものの正体へと立ち返ります。
「透、これまでは数直線の上を自由に動き回ってきたけれど、最後に一番根本的な問いに答えましょう。それが、『実数(Real numbers)』。数学における『数』の完全な姿についてよ」
私は数直線を一本、力強く描きました。
「私たちは有理数(分数で表せる数)を知っているわね。でも、さっきの π や e 、そして √ 2 のように、分数ではどうしても表せない『無理数』が存在する。有理数と無理数を合わせたものが『実数』だけど、スミルノフはここで、実数が持つ決定的な性質——『連続性(完備性)』について語っているの」
「例えばね、有理数だけを集めても、数直線はスカスカなの。無限にたくさんの有理数があっても、その間には必ず『穴』が開いている。でも、無理数をそこに流し込むと、数直線は一箇所の隙間もなく、ぎっしりと詰まった一本の線になる。これが実数の世界なのよ」
透は、数直線の一点を指差しました。「どこを拡大しても、隙間がないってこと?」
「そうよ。これを数学的に保証するのが、デデキントの切断や、前に学んだコーシーの判定条件ね。実数の世界が『ぎっしり詰まっている』からこそ、私たちは変数を限りなく近づけることができるし、極限という概念が意味を持つの。」
「スミルノフはこう締めくくっているわ。『極限の理論は、実数の連続性という土台の上に築かれた壮大な伽藍である』と。もし実数の世界に穴が開いていたら、変数はその穴に落ちてしまって、目的地に辿り着けないかもしれない。私たちが安心して計算できるのは、この『実数』という完璧な大地を踏みしめているからなのよ」




