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須美瑠乃 子と数学 競艇  作者: 中村正樹
2. The theory o f limits.
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2-13. 無限小、無限大の比較の例:Examples

夜も深まり、私たちは第2章の最後を飾る具体的な演習へと足を進めました。透は、先ほど習った「無限小の比較」という新しい眼鏡をかけて、数式の中に潜む「速さの競争」を見極めようとしています。


「透、理屈がわかったところで、スミルノフが挙げている具体的な例を見てみましょう。無限小の『オーダー』を比べることで、複雑な式が驚くほどシンプルに解けるようになるわ」


例1:多項式の極限

「まずは、分母も分子も無限大に飛んでいく、こんな形を考えてみて」


** lim_{x→∞} {2x^2 + 3x + 1}/{5x^2 - x + 4}


「 x が無限に大きくなるとき、それぞれの項には『勢い』の差があるわ。x^2 は x よりも圧倒的に速く大きくなるでしょう? だから、分母も分子も一番強い項である x^2 で割ってしまうの。すると、3/x や 1/x^2 みたいな『弱い』項はみんな 0 に消えてしまって、残るのは係数の 2/5 だけ。この場合、分子と分母は『同位の無限大』だったということね」


例2:三角関数と無限小の位

「次は、無限小の比較で最も有名な例よ。 のときを考えて」


** lim_{x→0} {1 - cos( x ) }/{x^2}


「 x が 0 に近づくとき、分母の x^2 は 2次の無限小ね。じゃあ分子の 1 - cos( x ) はどうかしら? 半角の公式を使うと 2sin^2( x/2 ) と書き換えられるわ。ここで sin( θ ) ~ θ という等価な無限小の知識を使うと……」


「分子は実質的に 2・( x/2 )^2 = {x^2}/{2} と同じ速さで 0 に向かっていることがわかるわ。つまり、極限値は 1/2 。これは 1 - cos( x ) が x に対して『2次の無限小』であることを意味しているのよ」


例3:無限大の序列

「最後に、もっとダイナミックな比較をしてみましょう」


** lim_{x→∞} {ln( x )}/{x^a} ( a > 0 )


「対数関数 ln{ x } も無限大へ行くし、冪関数 x^a も無限大へ行く。でも、対数の伸びはとても緩やかなの。どんなに小さな正の数 a であっても、結局は x^a の方が圧倒的に強く、この比の極限は 0 になるわ。対数は無限大の世界では一番の『のんびり屋さん』なのね」


透はノートに、「強いものが全体を支配する」とメモを書き込みました。


「複雑に見える式でも、どの項が一番『速い』かを見抜ければ、答えが予測できるんだね」


「その通りよ、透。この『支配的な項を見極める』という感覚は、これから学ぶ微積分、そして物理学や工学で近似計算をするときに、何よりも大切な直感になるわ」


私はスミルノフをそっと閉じ、透の肩に手を置きました。

「さあ、これで準備はすべて整ったわ。無限、極限、連続……。これらの重厚な扉をすべて通り抜けた先に待っているのが、いよいよ第3章、近代数学の真の出発点『微分法』よ」

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