2-9. 三角関数の極限:Example
透が少し身を乗り出して、「じゃあ、実際にどうやって計算するの?」と聞いてきました。私は具体的な例をいくつかノートに書き出しました。
「理屈はわかっても、実際に手を動かしてみるのが一番の近道よ。例えば、こんな関数の極限を考えてみましょう。」
例1:分母が 0 にならない穏やかなケース
** lim_{x→2} { x^2 - 1 }/{ x + 1 }
「これはとてもシンプル。x が 2 に近づくとき、分子は 2^2 - 1 = 3 に、分母は 2 + 1 = 3 に近づくわね。だから結果は 3/3 = 1 。基本定理をそのまま使うだけよ。」
例2:0/0 という「不定形」のケース
「でも、数学の本当の面白さはここからよ。もしこんな式だったらどうかしら?」
** lim_{x→1} { x^2 - 1 }/{ x - 1 }
「 x にそのまま 1 を入れると、分母も分子も 0 になってしまうわね。これを数学では『不定形』と呼ぶの。でも、諦めないで。分子の x^2 - 1 は、( x - 1 )( x + 1 ) と因数分解できるでしょう?」
「 x は 1 に限りなく近づくけれど、1 そのものではないから、分母と分子の ( x - 1 ) を約分して消すことができるの。残ったのは 。x + 1 だから、この極限値は 1 + 1 = 2 になるのよ。」
透は「あ、消えちゃうんだ!」と声を上げました。
例3:有名な三角関数の極限
「そして、スミルノフがここで紹介している最も重要な例がこれよ。今後の計算で何度も使う、大切な武器になるわ。」
** lim_{x→0} {sin( x )}/{x} = 1
「 x が 0 に近づくとき、角度 x(弧の長さ)と、その高さ sin( x ) は、ほとんど区別がつかないくらい同じ速さで 0 に近づいていくの。その比率は、最終的にぴったり 1 になる。これは幾何学的な図形を使って証明される、とても美しい真理なのよ。」
透は、分母が 0 になるはずの場所で、数式が鮮やかな答えを導き出す様子をじっと見つめていました。
「計算できないと思っていた場所にも、ちゃんと答えが隠れているんだね。」
「ええ。この『隠れた答え』を見つけ出す技術こそが、解析学の醍醐味よ。さて、この極限の考え方を使って、いよいよ次は関数が『繋がっている』ことの証明——連続性の世界へ踏み込みましょうか。」




