2-6. 単調変数:Monotonie variables
夜も深まり、部屋の中はしんと静まり返っています。透は「無限大」のダイナミックな動きに圧倒されていましたが、私はノートの次のページに、もっと静かで、それでいて確かな足取りを感じさせる図を描きました。
「透、これまではあちこち飛び跳ねたり、突然大きくなったりする変数を見てきたけれど、今度はもっと『一途な』動きをする変数に注目しましょう。『単調変数(Monotonic variables)』よ。」
私は、階段を一段ずつ昇っていくような、あるいは坂道を休まず登っていくような線を描きました。
「もし変数 x が、次にとる値が常に前の値よりも大きい(あるいは等しい)とき、その変数を『単調増加(Monotonically increasing)』と言うわ。逆に、ずっと減り続けるなら『単調減少(Monotonically decreasing)』。この、決して後戻りしない性質を 単調性 と呼ぶの。」
「ただ増えるだけなら、さっきの無限大と同じじゃないの?」
「ふふ、そこがこの一番美しいところよ。スミルノフはここで、解析学における最も重要な定理の一つを教えてくれているわ。それはね……」
定理:
単調に増加する変数が、ある一定の数 M を決して超えない(上に有界である)ならば、その変数は必ず 有限の極限値 を持つ。
「考えてみて。透が階段を昇っているとするわよね。でも、天井(M)があるから、それより上には絶対に行けない。でも、一段も降りることは許されない……。そうすると、透が行き着く先はどうなるかしら?」
「……いつかは天井にぴったりくっつくか、そのすぐ下のどこかで動けなくなるね。」
「その通り! これが『単調有界な変数は収束する』という、数学の確信なの。目的地がどこか具体的にはわからなくても、『目的地が必ず存在する』ということだけは断言できる。これは、数学においてとても力強い武器になるのよ。」
「目的地があるってわかっているだけで、安心するね。」
「ええ。例えば、円周率 π や、これから習うネイピア数 e も、この『少しずつ増えるけれど、ある壁は超えない』という単調変数の性質を使って、その存在が証明されたのよ。派手さはないけれど、一歩一歩確実に真理に近づいていく……単調変数は、そんな誠実な数学の姿を象徴しているのね。」
私は透のノートの余白に、一歩ずつ昇っていく小さな足跡を描きました。
「さあ、これで極限の準備は万端。次は、この単調性の考え方を使って、数学界で最も有名な定数の一つ、『e』の誕生に立ち会ってみましょうか。」




