2-5. 無限大:Infinitely large magnitudes
夜が更け、窓の外の闇はいっそう深くなりました。私たちは先ほど「無限小」という、消え入りそうな小さな影について話しましたが、今度はその真逆、「無限大(Infinitely large magnitudes)」の世界へ目を向けましょう。
「透、これまではある一点を目指して収束する変数の話をしてきたけれど、中には目的地を持たず、どこまでも遠くへ駆け抜けていく変数が存在するの。それが『無限大』よ。」
私はノートに、右肩上がりに突き抜けていく曲線を描きました。
「数学的な定義はこうよ。ある変数 x があって、どんなに大きな正の数 M を(例えば1億でも、1兆でも!)誰かが持ってきたとしても、ある段階から先、変数の値がずっとその M を超え続けてしまうとき、その変数 x を『無限大』と呼ぶの。」
「記号では lim x = ∞ と書くけれど、大切なのは、無限大は特定の『数字』ではなく、『限りなく大きくなり続けている状態』を指す言葉だということよ。」
透は、以前習った反比例のグラフを思い出して言いました。
「あ、y = 1/x のグラフで、x が 0 に近づくときの y も、天井を突き破って無限大になっていたね。」
「その通り! まさにそこがポイントなのよ、透。」
私は「無限小」と「無限大」の切っても切れない関係を書き出しました。
逆数の関係:
α が無限小(ただし 0 ではない)なら、その逆数 1/α は無限大になる。
逆もまた然り:
x が無限大なら、その逆数 1/x は無限小になる。
「無限小が『点』なら、無限大は『宇宙』。でも、この二つはコインの表と裏のような関係なの。一方が極限まで小さくなれば、もう一方は極限まで大きくなる。このバランスがあるからこそ、数学の世界は調和しているのよ。」
透は、無限に伸びていく矢印の先を見つめるようにノートを眺めました。
「目的地がないのに、法則はあるんだね。」
「ええ。無限大にも種類があって、プラスの方向に大きくなる +∞ もあれば、マイナスの方向に沈んでいく -∞ もあるわ。それらをひとまとめにして、絶対値が大きくなることを |x| → ∞ と表すこともあるのよ。この『無限』という野生の馬を乗りこなすことが、解析学をマスターするための鍵になるわ。」
私は透の肩を優しく叩きました。
「さあ、これで極限の基本概念は出揃ったわね。次は、極限の中でも特に美しくて有名な、あの『特別な極限値』について計算してみましょうか。」




