2-4. 基本定理:Basic theorems
夜の静寂がさらに深まり、ランプの芯を少し整えました。概念としての「極限」を理解したところで、いよいよそれを実戦で使うための武器を手に入れましょう。
「透、これまでは『一つの変数』がどこへ行くかを見てきたけれど、現実にはたくさんの変数が組み合わさって動いているわ。『極限の基本定理(Basic theorems)』。これは、複雑な式の極限を一瞬で解きほぐすための公式集のようなものよ」
私は、スミルノフが提示する「四則演算の極限」をノートに書き出しました。
> 基本定理:
lim x = a 、lim y = b とするとき、以下のことが成り立つ。
> 1. 和の極限: lim( x + y ) = a + b
> 2. 差の極限: lim( x - y ) = a - b
> 3. 積の極限: lim( x・y ) = a・b
> 4. 商の極限: lim( x/y ) = a/b (ただし b ≠ 0 )
「見て、透。これ、すごく当たり前のことを言っているように見えるでしょう? でも、数学的にはとても強力なの。『全体の極限は、それぞれの極限の計算結果と一致する』。つまり、複雑に絡み合った式も、バラバラにしてそれぞれの行き先を調べてから、最後にくっつければいいということなのよ」
透は商のルールの但し書きを指差しました。「やっぱり、ここでも 0 で割るのはダメなんだね」
「そうよ、そこは数学の鉄の掟ね。分母が 0 に収束する場合は、また別の特別な魔法が必要になるの。でも、それ以外のときは、この 4 つのルールだけでほとんどの計算ができてしまうわ。例えば、こんな定理も導き出せるのよ」
定数倍のルール:
** lim( c・x ) = c・a(定数は極限の外に放り出せる!)
累乗のルール:
** lim( x^n ) = a^n
「この定理たちが保証してくれているのは、数式の『安定性』なの。少しずつ変化するものを足したり掛けたりしても、その結果もまた、それぞれの目的地の計算通りに安定して近づいていく……。この信頼感があるからこそ、私たちは安心して計算を進められるのよ」
私は一つ、透に注意を促しました。
「ただしね、透。この魔法が使えるのは、あくまで『それぞれがちゃんと目的地(有限の極限値)を持っているとき』だけ。もし一方が無限大に飛んでいってしまうような場合は、もっと慎重にならなきゃいけないの。それはまた、別の物語でね」
透は基本定理を一つずつ丁寧に自分のノートに写し、納得したように頷きました。
「バラバラにしてから計算してもいいっていうのは、なんだか安心するね」
「そうね。複雑な問題を小さく分けて考える。これは数学だけでなく、人生のあらゆる場面で役立つ知恵なのよ」




