2-3. 変数の極限値:The limit of a variable
窓の外は静まり返り、月が空高くに留まっています。私は、さっき描いた「無限小」の図を指で包むようにして、透に言いました。
「透、無限小がわかれば、この第2章の心臓部である『極限(Limit)』の正体を、もっとはっきりと掴むことができるわ。それが『変数の極限(The limit of a variable)』よ。」
私はノートに、より厳格な定義を書き記しました。
> 定義: 変数 x が定数 a に近づくとき、その差 x - a が 無限小 であるならば、定数 a は変数 x の 極限 であるという。
「これを記号で書くと、こうなるわ」
** lim x = a または x → a
「でもね、透。単に『近づく』と言っても、数学の世界ではもっと厳しいルールがあるの。スミルノフはこう説明しているわ。『どんなに小さな、勝手に決めた正の数 ε(イプシロン)に対しても、ある段階から先の変数の値が、すべて | x - a | < ε という範囲に入ってしまうこと』。これが、極限の本当の意味なのよ」
透は、数式をじっと見つめて考え込みました。
「誰かが『これくらい近づける?』って意地悪な数字を出してきても、『それよりもっと近づけるよ』って言い返せるっていうこと?」
「その通り! まさにその通りよ、透。どんなに厳しい要求( ε )をされても、それに応えられるだけの準備が変数 x にはできている。それが『収束する』という状態の強さなの」
私は、さらにいくつか大切なルールを付け加えました。
** 唯一性:
もし変数が極限を持つなら、その値はたった一つしかないわ。二つの違う場所に同時にたどり着くことはできないの。
** 定数の極限:
ずっと変わらない定数 c の極限は、もちろんその c 自体よ。
「そしてね、もう一つ大切なことがあるわ。変数が極限 a に近づくとき、それは『 a より小さい方から』近づくこともあれば、『 a より大きい方から』近づくこともある。あるいは、その周りをあちこち飛び跳ねながら近づくことだってあるの。どんな近づき方であっても、最終的に a という『門』の中に吸い込まれていくなら、それは立派な極限なのよ」
透は、自分のノートの端に x → a と小さく書きました。それは、ただの記号ではなく、無限の彼方へと続く行進の合図のように見えました。
「極限は、私たちが無限のプロセスを『一つの確定した数字』として捕まえるための網のようなものね」
私は微笑んで、次のページをめくる準備をしました。
「さあ、概念はわかったわね。次は、この極限という道具を使って、足し算や掛け算をどう扱うか——『極限の計算ルール』について見ていきましょうか」




