2-1. 順序づけられた変数:Ordered variables
机の上のランプを少し手元に引き寄せ、私は透のノートに一つの矢印を描きました。
「透、極限の理論を深く理解するために、まずは『変数』がどのように動いていくのか、その『秩序』について整理しましょう。」
私は数直線の上に、いくつかの点を順番に打っていきました。
「これまで変数は、ある範囲の中を自由に動き回るものとして扱ってきたわね。でも、極限を考えるときは、変数が『ある方向に向かって次々と値をとっていく』という、時間の流れのような順序を考えるの。これを順序付けられた変数、あるいはもっとシンプルに『数列(Sequence)』と呼んでもいいわ」
「例えば、こんな風に数字が並んでいるとするわね」
** x_1 = 1, x_2 = 1/2, x_3 = 1/3, ... x_n = 1/n, ...
「この x という変数は、n が大きくなるにつれて、 1, 0.5, 0.33..., ... と、どんどん小さくなっていく。このとき、 x_n は『順序付けられた変数』として、ある目的地に向かって行進していると言えるのよ」
透は、分母が大きくなるほど数字が小さくなっていく様子を指でなぞりました。
「目的地は…… 0 だね?」
「そう、その通り! このとき、変数がとりうる値の性質によって、二つのパターンがあるわ」
1. **離散的な変数(Discrete variables)**
今のように、n = 1, 2, 3, ... と飛び飛びの値をとるもの。
2. **連続的な変数(Continuous variables)**
x が 1 から 0 に向かって、その間のすべての数字を通りながら滑らかに近づいていくもの。
「大事なのは、その変数が『どこまで行くか』ということ。もし変数が、どんなに大きな数字(M)を持ってきても、いつかはそれより大きくなってしまうなら、その変数は『無限大(∞)』に発散すると言うわ」
「逆に、さっきの 1/n みたいに、ある定数 a に限りなく近づいて、その差をいくらでも小さくできるなら、変数は a に『収束する』と言うのよ。スミルノフはね、この『変数が順序を持って目的地に向かう』という概念こそが、解析学のすべての基礎になると教えてくれているの」
透は自分のノートに、無限に続く点の列を描き、その先に「∞」と「a」の文字を書き込みました。
「数字たちがみんな、迷子にならずに目的地に向かって歩いているみたいだね」
「ふふ、そうね。数学は、カオス(混沌)の中にコスモス(秩序)を見出す学問。明日からは、この『行進』が目的地にたどり着くためのもっと詳しい条件を見ていきましょう」




