2. 極限の理論、連続関数:The theory o f limits. Continuous functions
窓の外では夜風が木々を揺らし、私たちはスミルノフ教程の新しい扉、第1章 第2節の入り口に立ちました。透はノートの真っ白なページを開き、期待に満ちた目で私を見ています。
「透、これまで私たちは『関数』という魔法の道具を揃えてきたわね。でも、ここからが数学の本当の冒険の始まり。第2節のテーマは『極限の理論(The theory of limits)』。これは、一見たどり着けないはずの場所に、思考の翼で触れようとする学問なの。」
私は数直線の上に、一つの点「a」を描きました。
「例えばね、透。ある数列や変数が、a という値に向かってどんどん近づいていくとするわ。でも、決して a そのものには重ならない。それでも、限りなく近づいていくなら、私たちはその変数が a に『収束(converge)』すると言い、その a を『極限値(limit)』と呼ぶの。」
私は、スミルノフの美しい定義を、透にもわかりやすい言葉で噛み砕きました。
「数学者はこれをこう定義したわ。どんなに小さな、どんなに微かな隙間( ε :イプシロン)を a の周りに作ったとしても、ある時点から先、変数は必ずその隙間の中に閉じ込められてしまう……。これが『限りなく近づく』ということの、厳格な数学の証明なのよ。」
「お母さん、それってアキレスとカメの話みたいだね。追い越せないけど、どんどん近づく……。」
「そうね、まさにその直感を、誰もが納得できる論理に磨き上げたのがこの理論なの。この『極限』という考え方があって初めて、私たちは次のことができるようになるわ。」
私はノートに三つの重要なポイントを書きました。
1. 無限の彼方を見通す
x がとてつもなく大きくなったとき、関数がどこへ向かうのかを知ることができる。
2. 0で割る禁じ手を解く
分母が 0 になる瞬間は計算できないけれど、 0 に「限りなく近づく」とき、その式がどんな値を目指しているかは計算できる。
3. 滑らかな変化を捉える
一瞬一瞬の変化を捉える「微分」も、この極限の理論の上に建っている。
「極限は、有限の世界しか生きられない私たちが、無限という神様の視点に一歩近づくための梯子なのよ。少し難しいかもしれないけれど、この梯子を登りきれば、世界の見え方が劇的に変わるわ。」
透は、数直線の上で a に向かって寄り添う点たちをじっと見つめ、何か遠い世界を想像しているようでした。
「さあ、明日はこの極限の具体的な計算方法、そして関数の『連続性』という、もう一つの美しい魔法についてお話ししましょうか。」




