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1-21. 多価関数:Many-valued functions

夜が更け、私たちの周りには鉛筆が紙を走る音だけが響いています。透は、先ほど習った「逆関数」の条件——一対一の固い絆——を反芻するようにノートを見つめていました。


「ねえ、透。さっきは『答えが二つあると困っちゃうから、範囲を限定しましょう』ってお話ししたわね。でも、数学はわがままなもの。時には、その『複数の答え』をすべてひっくるめて愛さなきゃいけないこともあるの。」


私はノートに、さっきの「お椀」の形、y = x^2 を今度は横に倒して描きました。


** x = y^2 または y = ±√ x


「これを見て。一つの x を決めたとき、y の値が上と下に二つ決まってしまうわよね? x = 4 なら 2 は -2 と 。このように、一つの独立変数に対して複数の値が対応する関係を『多価関数』と呼ぶの」


「でも、お母さん。関数っていうのは、答えがたった一つに決まるものだって、一番最初に言わなかったっけ?」


「ふふ、よく覚えていたわね、透。厳密な定義ではその通りよ。だから、多価関数を扱うときは、それをいくつかの『枝(Branches)』に分けて考えるのが数学の作法なの。この横倒しの放物線なら、上の半分を『正の枝』、下の半分を『負の枝』として分ければ、それぞれは使いやすい一価関数になるわ」


私はページをめくり、さらに不思議な渦巻きのような曲線を描きました。


「もっと複雑なものになると、答えが三つも四つも、あるいは無限にある多価関数だって存在するのよ。例えば、これから習う逆三角関数や対数関数の中には、一つの入り口に対して無限の出口があるような、魔法の迷宮みたいな関数があるの」


「無限の答え……。それじゃあ、迷子になっちゃわない?」


「そうね、だからこそ私たちは『主値(Principal value)』という、一番代表的な出口を決めておくのよ。でも、迷宮全体を見渡すことで、単一の答えだけでは見えてこない、数学の本当の広がりが見えてくることもあるわ」


私は透のノートの隅に、二つの道に分かれるフォークを描きました。


「一つの原因から、いくつもの結果が生まれる可能性。多価関数は、数学が持つそんな豊かさを教えてくれるのよ。さあ、一価から多価へ。私たちの冒険は、どんどん複雑で面白い場所へと足を踏み入れているわ」


透は、二つの枝に分かれた曲線をなぞりながら、数学が持つ「懐の深さ」を少しだけ感じ取ったようでした。

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