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1-15. 実験式:Empirical formulae

夜も更けてきましたが、透はまだ「等速運動」のグラフを眺めています。私は、少しいたずらっぽく微笑んで、彼に問いかけました。


「ねえ、透。これまでは『数式があって、そこからグラフを作る』お話だったわね。でも、科学者が実験室で新しい発見をするときは、その逆なのよ。バラバラのデータから『数式』を導き出す……それが『実験式(Empirical formulae)』の魔法よ。」


私は、ノートにわざと少しガタガタした点の集まりを描きました。


「例えば、バネに重りをつるして、伸びる長さを測ったとするわよね。実験だから、測るたびに少しずつ誤差が出る。グラフにすると、点は一直線には並ばず、少しだけ散らばってしまうの。でも、全体を眺めると……どう見える?」


透は目を細めて、その点の間を通るように指を動かしました。

「なんとなく、一本のまっすぐな線が見える気がする。」


「そう、その『なんとなく見える線』を数学的に見つけ出すのが、実験式なの。点がほぼ直線上に並んでいるなら、それはきっと一次関数 y = ax + b というルールに従っているはずだって予想するのよ。」


「どうやって、その直線を決めるの?」


「一番簡単なのは、点と点のちょうど真ん中を通るような、一番『公平な線』を引くこと。正確には『最小二乗法』なんていう難しい名前のテクニックもあるけれど、基本は『複雑な現象の背後にある、シンプルな直線のルール』を探す作業なのよ。」


私は、透のノートに描かれたガタガタの点の上に、シュッと一本の綺麗な直線を書き加えました。


「もしその直線(数式)が見つかれば、まだ実験していない、もっと重い重りをつるした時にバネがどれくらい伸びるか、予言できるようになるわ。実験式は、私たちが経験(実験データ)から、まだ見ぬ未来を言い当てるための『橋渡し』なの。」


透は、バラバラだった点が一本の線にまとめられていく様子を見て、不思議そうな顔をしました。


「数学って、実験の結果を整理するだけじゃなくて、未来を当てる予言の書みたいだね。」


「ええ。この『実験から法則を見つける』というステップこそが、物理学や工学が発展してきた一番の原動力なのよ。変数の世界から始まって、等速運動、そして実験の知恵まで、よく頑張ったわね。」


私はランプを消しました。窓の外では、変わらぬ法則に従って、星たちがそれぞれの軌道を静かに刻んでいました。

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